「「法人税等」と「未払法人税等」の計上手順と設例」
2021年(令和3年)8月28日(最終更新2022年5月1日)
寺田 誠一(公認会計士・税理士)
・「法人税等」と「未払法人税等」との関係
損益計算書の「法人税等(※)」と貸借対照表の「未払法人税等」では、法人税等の方が大きくなります。法人税等は当期1年間の負担すべき税額を示すのに対して、未払法人税等はそのうち期末に残っている租税債務を示すからです。両者の相違点は、通常、①中間納付額と、②受取利息配当金にかかる国税(源泉所得税)です。1年間の負担すべき法人税等から、すでに支払済みである中間納付額や受取利息配当金にかかる国税を差し引いた額が、期末の未納付額となります。
損益計算書の法人税等-中間納付額-受取利息配当金の国税(源泉所得税)=貸借対照表の未払法人税等
※:正確には、「法人税、住民税及び事業税」。本稿では、「法人税等」と省略。
・「法人税等」と「未払法人税等」の計上手順
損益計算書の「法人税等」と貸借対照表の「未払法人税等」を正確に計上する場合の手順は、次のとおりです。会計と税務とで、行ったり来たりします。
① 会計:未払法人税等を計上する前(中間納付額と、受取利息配当金の国税は計上後)の当期純利益を、試算表などで算出。
② 税務:①の当期純利益をもとに、法人税申告書・法人住民税申告書・法人事業税申告書で税額計算して、未納額を算出。
③ 会計:②の未納額を未払法人税等に計上し、税引後の当期純利益を算出。➡決算書が完成。
④ 税務:法人税申告書別表四の当期利益を③の当期純利益の額に訂正し、別表四の加算で納税充当金を記入。➡法人税申告書が完成し、連動して、法人住民税申告書・法人事業税申告書が完成。
・未払法人税等計上の設例1
(設例1)…すべて法人税等に計上されている場合
次の場合、決算整理仕訳と損益計算書・貸借対照表はどうなりますか。金額の単位省略。
決算整理:法人税等の期末未払計上 100
(決算整理仕訳)
中間納付額と国税はすでに法人税等に計上されているので、未払法人税等の計上だけを行います。
(借)法人税等 100 (貸)未払法人税等 100
(損益計算書・貸借対照表)
(未払法人税等の正確な計上)
決算整理の法人税等期末未払額100が正確に計算されたものであった場合、どのような処理を行うのか、設例の場合の手順を示してみます。
① 会計:損益計算書(試算表)より、中間納付額500と受取利息配当金の国税10を差し引いた後の当期純利益1,490を把握します。
② 税務:法人税申告書別表四の一番上の当期利益の欄に1,490を記入します。そして、法人税申告書・法人住民税申告書・法人事業税申告書の計算を行い、未納額100を算出します。
別表四
区 分 |
総 額 |
処 分 |
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留 保 |
社外流出 |
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当期利益 |
1,490 |
1,490 |
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加算 |
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減算 |
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所得金額 |
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③ 会計:未払法人税等100を決算整理仕訳として計上します。その結果、損益計算書(試算表)の当期純利益1,390を把握します。
(借)法人税等 100 (貸)未払法人税等 100
④ 税務:法人税申告書別表四の当期利益を1,390に訂正し、別表四の加算項目である納税充当金に100を記入します。
これにより、②で計算した税額が変わることはありません。なぜなら、費用計上した納税充当金100は、税務上、損金不算入だからです(税務上、所得扱いです。)。税務上の所得1,490を、当期利益1,390と納税充当金100に分けたということです。別表四の記入欄を変えたにすぎません。
別表四
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
1,390 |
1,390 |
|
|
加算 |
損金経理納税充当金 |
100 |
100 |
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減算 |
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所得金額 |
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(未払法人税等の概算計上)
決算整理の法人税等期末未払額100が概算計上だった場合には、決算書はこれで完結します。
その後は、当期純利益1,390をもとに、申告書で税額計算を行い、申告書もそれで完結します(申告書で正確に計算した未納額は、当然、概算額100とは異なります。)。その後、再び、決算書に戻って計算するということはありません。
未払法人税等の概算計上の場合には、決算書と申告書はそれぞれで完結します。相互に行ったり来たりすることはありません。
・未払法人税等計上の設例2
(設例2)…仮払金や租税公課に計上されている場合
次の場合、決算整理仕訳と損益計算書・貸借対照表はどうなりますか。金額の単位省略。
決算整理:法人税等の期末未払計上300
(決算整理仕訳)
中間納付額を仮払金から、国税を租税公課から、それぞれ法人税等に振替えます。そして、期末の未払法人税等を計上します。
(借)法人税等 800 (貸)仮払金 800
(借)法人税等 30 (貸)租税公課 30
(借)法人税等 300 (貸)未払法人税等 300
(損益計算書・貸借対照表)
租税公課30という費用が減るので、税引前当期純利益は30増えて4,030となります。そして、中間納付額800と国税30を合計した法人税等は830となります。したがって、この段階(未払法人税等を計上前)の当期純利益は4,030-830=3,200となります。正確な未納額を計算する場合には、3,200を別表四の当期利益欄に計上して、スタートします。
未払法人税等を正確に計上する場合と概算で計上する場合の考え方は、設例1と同じですので、以下省略します。
※本稿は、次の拙稿をもとに、大幅に加筆修正したものです。
寺田誠一稿『経理の疑問点スッキリ解明 第10回 法人税等』月刊スタッフアドバイザー 2010年(平成22年)1月号
※申告調整が仕訳で表せることについては、「別表四(留保)・別表五(利益積立金)の関係と「申告調整の仕訳」参照。
※未払法人税等(納税充当金)の計上については、「未払法人税等を未計上・計上・概算計上の申告書設例」参照。
※未収還付法人税等(仮払税金)の計上については、「未収還付法人税等を未計上・計上・概算計上の申告書設例」参照。
※未収還付源泉所得税(仮払税金)の計上については、「未収還付源泉所得税を未計上・計上の申告書設例」参照。
※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。