「将来減算一時差異の税効果会計と申告書設例」
2021年(令和3年)8月14日(最終更新2022年8月6日)
寺田 誠一(公認会計士・税理士)
・設例
税効果会計で一番代表的な損金不算入(将来減算一時差異)を考えてみます。売掛金などの貸倒損失、各種の評価損などです。次のような設例を考えてみます。個別財務諸表を前提。金額の単位省略。
(設例1)
Ⅰ期、Ⅱ期ともに税引前当期純利益1,000。
Ⅰ期で損金不算入の貸倒損失300が、Ⅱ期で認容。
法定実効税率30%。
事業税の翌期認容は無視する。
法人税等の中間納付はないものとする。
税効果会計は適用しない。
※認容:会計上、費用となっていないが、税務上、損金とすること。
(設例2)
税効果会計を適用。
それ以外は(設例1)と同じ。
そして、(設例1)~(設例2)について、次の5つのものを見ていくこととします。
① 損益計算書の表示
② 貸借対照表の表示
③ 法人税申告書別表四の表示
④ 法人税申告書別表五(一)の表示
⑤ 税効果会計の仕訳
・(設例1)Ⅰ期の表示(税効果会計適用なし)
Ⅰ期損益計算書
税引前当期純利益 1,000 法人税等 390* 当期純利益 610
*:(1,000+300)×0.3 |
Ⅰ期貸借対照表 |
|
|
未払法人税等 390 繰越利益剰余金 610 |
Ⅰ期別表四 |
||||
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
610 |
610 |
|
|
加算
|
法人税等 |
390 |
390 |
|
貸倒損失否認 |
300 |
300 |
|
|
所得金額 |
1,300 |
1,300 |
|
Ⅰ期別表五(一) |
||||
区 分
|
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
否認貸倒損失 |
|
|
300 |
300 |
繰越損益金 |
|
|
610 |
610 |
納税充当金 |
|
|
390 |
390 |
・(設例1)Ⅱ期の表示(税効果会計適用なし)
Ⅱ期損益計算書
税引前当期純利益 1,000 法人税等 210* 当期純利益 790
*:(1,000―300)×0.3 |
Ⅱ期貸借対照表 |
|
|
未払法人税等 210 繰越利益剰余金1,400 |
Ⅱ期別表四 |
||||
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
790 |
790 |
|
|
加算 |
法人税等 |
210 |
210 |
|
減算 |
貸倒損失認容 |
300 |
300 |
|
所得金額 |
700 |
700 |
|
Ⅱ期別表五(一) |
||||
区 分
|
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
否認貸倒損失 |
300 |
300 |
0 |
0 |
繰越損益金 |
610 |
610 |
1,400 |
1,400 |
納税充当金 |
390 |
390 |
210 |
210 |
・(設例2)Ⅰ期の表示(税効果会計を適用)
Ⅰ期損益計算書
税引前当期純利益 1,000 法人税等 390 法人税等調整額 90* 300 当期純利益 700
*:300×0.3 |
Ⅰ期貸借対照表 |
|
繰延税金資産 90 |
未払法人税等 390 繰越利益剰余金 700 |
Ⅰ期別表四 |
||||
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
700 |
700 |
|
|
加算
|
法人税等 |
390 |
390 |
|
貸倒損失否認 |
300 |
300 |
|
|
減算 |
法人税等調整額 |
90 |
90 |
|
所得金額 |
1,300 |
1,300 |
|
Ⅰ期別表五(一) |
||||
区 分
|
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
否認貸倒損失 |
|
|
300 |
300 |
繰延税金資産 |
|
90 |
|
△90 |
繰越損益金 |
|
|
700 |
700 |
納税充当金 |
|
|
390 |
390 |
会計上の仕訳
(借)繰延税金資産 90 (貸)法人税等調整額 90
税務上の仕訳
仕訳なし
申告調整の仕訳
(借)法人税等調整額(利益積立金)90 (貸)繰延税金資産90
「会計上の仕訳」に「申告調整の仕訳」を加えて、「税務上の仕訳」になるように考えます。いわば、「申告調整の仕訳」は、「税務上の仕訳」から「会計上の仕訳」を差し引いて逆算で求めることになります。「税務上の仕訳」と「申告調整の仕訳」は、このように考えるというものであり、実際に仕訳として行うわけではありません。「申告調整の仕訳」は、その内容が別表五(一)に反映されます。
さて、設例では、会計上行った法人税等調整額など法人税等関係の仕訳は、税務上はなかったものとみなします。そのため、「申告調整の仕訳」として、「会計上の仕訳」の逆仕訳を行います。
「申告調整の仕訳」で借方に記入された法人税等調整額は、所得のマイナスなので、別表四で減算されます。
また、借方に記入された利益積立金は、仕訳の原理(利益積立金は本来の場所が貸方)により、利益積立金の減少を表します。したがって、別表五(一)では、当期の減少欄に記入されます。別表五(一)の名称は、「繰延税金資産」とします。
会計上の仕訳は、別表五(一)の繰越損益金に反映されているので、この「申告調整の仕訳」を加えることにより、「税務上の仕訳」、すなわち仕訳なしを別表五(一) で表すことになります。
・(設例2)Ⅱ期の表示(税効果会計を適用)
Ⅱ期損益計算書
税引前当期純利益 1,000 法人税等 210 法人税等調整額 90* 300 当期純利益 700
*:300×0.3 |
Ⅱ期貸借対照表 |
|
|
未払法人税等 210 繰越利益剰余金1,400 |
Ⅱ期別表四 |
||||
区 分 |
総 額 |
処 分 |
||
留 保 |
社外流出 |
|||
当期利益 |
700 |
700 |
|
|
加算 |
法人税等 |
210 |
210 |
|
法人税等調整額 |
90 |
90 |
|
|
減算 |
貸倒損失認容 |
300 |
300 |
|
所得金額 |
700 |
700 |
|
区 分 |
期首利益積立金 |
当期の増減 |
翌期首利益積立金 |
|
減 |
増 |
|||
否認貸倒損失 |
300 |
300 |
|
0 |
繰延税金資産 |
△90 |
|
90 |
0 |
繰越損益金 |
700 |
700 |
1,400 |
1,400 |
納税充当金 |
390 |
390 |
210 |
210 |
会計上の仕訳
(借)法人税等調整額 90 (貸)繰延税金資産 90
税務上の仕訳
仕訳なし
申告調整の仕訳
(借)繰延税金資産90 (貸)法人税等調整額(利益積立金)90
「申告調整の仕訳」の貸方に記入された法人税等調整額は、所得の増加なので、別表四で加算されます。
「申告調整の仕訳」の貸方に記入された利益積立金は、仕訳の原理(利益積立金は本来の場所が貸方)により、利益積立金の増加を表します。したがって、別表五(一)では、当期の増加欄に記入されます。別表五(一)の名称は、「繰延税金資産」とします。
・設例1~設例2のまとめ
|
|
当期純利益 =当期利益 |
法人税等 =未払法人税等 =納税充当金 |
繰越利益剰余金期末残 =繰越損益金期末残 |
別表四の所得金額 |
設例1 |
Ⅰ期 |
610 |
390 |
610 |
1,300 |
Ⅱ期 |
790 |
210 |
1,400 |
700 |
|
設例2 |
Ⅰ期 |
700 |
390 |
700 |
1,300 |
Ⅱ期 |
700 |
210 |
1,400 |
700 |
まず、損益計算書から見ていきます。税引前当期純利益と税金費用との関係は、税効果会計を適用していない設例1のⅠ期・Ⅱ期では30%になっていません。税効果会計を適用している設例2のⅠ期・Ⅱ期では、30%となっています。
損益計算書の設例1のⅠ期とⅡ期の当期純利益の合計は、610+790=1,400となっています。設例2では、700+700=1,400です。税効果会計を適用する場合としない場合で、途中の期では利益は異なりますが、通算すれば同じとなります。
次に、貸借対照表ですが、Ⅰ期は、設例1と設例2とで異なります。Ⅰ期の繰越利益剰余金は610です。設例2では、繰延税金資産という資産が90多く計上されているため、繰越利益剰余金が700となります。
貸借対照表のⅡ期は、設例1と設例2とで同じになります。すなわち、Ⅱ期の繰越利益剰余金1,400は同じです。
税務は、設例1と設例2とで、Ⅰ期の所得は1,300、税額(法人税等=未払法人税等=納税充当金)は390、Ⅱ期の所得は700、税額は210で、みな同一金額となっています。
税務上は、税効果会計を適用してもしなくても、すべて同じ結果となります。税務は、公平性を保つため、会計処理に左右されないということです。税務の論理が、しっかり貫かれていると思います。
※本稿は、次の拙稿をもとに、大幅に加筆修正したものです。
寺田誠一稿『税理士と実務家のための会計シリーズ第10回 税効果会計』週刊税務通信2004年(平成16年)8月30日号
寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第4回 「税効果会計」の理路整然』月刊スタッフアドバイザー 2011年(平成23年)11月号
※法定実効税率の式の導き方については、「法定実効税率の式の算出方法(求め方)」参照。
※将来加算一時差異の設例については、「圧縮記帳の税効果会計と申告書設例」参照。
※その他有価証券の設例については、「その他有価証券の税効果会計と申告書設例」参照。
※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。