「NPO法人の法人税」

 

2020年(令和2年)7月19日(最終更新2021年7月8日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・収益事業課税

 

 株式会社などは、各事業年度のすべての所得に対して法人税が課税されます。それに対して、NPO法人などの非営利法人は、収益事業から生じた所得に対してのみ法人税が課税されます。収益事業以外の所得には、法人税が課税されません。NPO法人は営利を目的としないので、すべての所得に対して課税すべきではないとも考えられますが、同種の事業を営む株式会社などとの課税の公平のため、このような制度となっています。

 そこで、収益事業とは何かが問題となります。税務では、収益事業に該当する要件として、次の3つを挙げています。すなわち、3つの要件をすべて満たした場合に、税務上の収益事業となります。ただし、実際には、①を満たせば②と③は当然満たすことが多いので、実質的には多くの場合、①を満たすことと収益事業に該当することとがイコールになっています。

 

① 次の34業種のいずれかに該当すること 

1.物品販売業

13.写真業

25.美容業

2.不動産販売業

14.席貸業(せきがし)

26.興行業

3.金銭貸付業

15.旅館業

27.遊技所業

4.物品貸付業

16.料理店業・飲食店業

28.遊覧所業

5.不動産貸付業

17.周施業(しゅうせん)

29.医療保険業

6.製造業

18.代理業

30.技芸教授業

7.通信業・放送業

19.仲立業(なかだち)

31.駐車場業

8.運送業・運送取扱業

20.問屋業

32.信用保証業

9.倉庫業

21.鉱業

33.無体財産権提供業

10.請負業

22.土砂採取業

34.労働者派遣業

11.印刷業

23.浴場業

 

12.出版業

24.理容業

 

*請負(うけおい)とは、当事者の一方(請負人)がある仕事の完成を約束し、相手方(注文者)がその仕事の結果に対する報酬を支払う約束により成立する契約をいいます。多くの業務が該当します。なお、税務上は、事務処理の委託も含みます。

 

 

②  継続して営まれるもの

 各事業年度の全期間を通じて継続して事業活動を行わないものであっても、その事業の性質上、全体としての継続性がある場合は、継続して営まれるものに該当します。たとえば、販売活動がごく短期間でも、準備期間が長期にわたるものは準備期間も含めて判断します。また、販売活動が一定の季節しか行われなくても、一定の季節ごとに反復・継続している場合には、継続して事業活動を行っているものとされます。

 土地の造成や分譲、全集や事典の出版、海水浴場や縁日への出店などが、継続して営まれるものの具体例としてよく挙げられます。

 

③ 事業所を設けて営まれるもの

 この要件は、その事業活動にとって拠点となるべき場所があるというほどの意味です。したがって、店舗・事務所などに限らず、転々と移転するものや必要に応じて施設を設けるものも含まれます。

 

 

・収益事業の留意点

 

 34業種の詳しい説明については多くの文献があるので、本稿では省略させていただきます。ただし、次の3点は重要と考えるので、述べておきたいと思います。

 

① 非課税規定

 

 収益事業課税とされても、障がい者・65歳以上の者・寡婦などがその事業の従事者の半数以上を占め、かつ、その事業がこれらの者の生活の保護に寄与している場合には、収益事業には含まれないとされています。

 また、34業種についても、それぞれの業種について、収益事業に該当しないものや除外されるものという個別の非課税規定が数多くあります。

 34業種のうちには、請負業的な性格を有するものもあります。しかし、そのようなものであっても、各業種で非課税という扱いになった場合には、改めて請負業で課税される(収益事業に該当)という取扱いはされないことになっています。

 

② 実費弁償方式

 

 請負業のうち事務処理の受託を行う場合において、法令の規定、契約などにより、委託者から受ける金額がその業務のために必要な費用の額を超えないときは、収益事業としないという取扱いがあります。たとえば、剰余金が生じたときは委託者に返還するというような場合です。

 ただし、そのためには、あらかじめ税務署長の確認を受けることが必要です(確認を得ると、最長5年間有効)。

 

③ 技芸教授業の限定列挙

 

 ここでいう技芸には22種類が挙げられています。洋裁、和裁、着物着付け、編物、手芸、料理、理容、美容、茶道、生花、演劇、演芸、舞踊、舞踏、音楽、絵画、書道、写真、工芸、デザイン、自動車操縦、小型船舶操縦です。収益事業となる技芸教授業は、この22種類に限定されます。

 したがって、それ以外のたとえば、パソコン、語学、囲碁、将棋、そろばんなどの教授は、ここでいう技芸教授業には該当しない、すなわち収益事業には該当しないという取扱いです。22種類に列挙されているかいないかで課税か否かが決まるという、たいへん不公平な制度になっています。早く改善してほしいものです。

 なお、限定列挙とされているのは技芸教授業だけであり、他の33業種は限定列挙方式にはなっていません。

 

 

・収益と税務

 

 別稿「NPO法人の収支計算書と活動計算書」では、NPO法人会計基準に従った活動計算書においては、経常収益が受取会費、受取寄付金、受取助成金等、事業収益、その他収益の5つに区分表示されることを示しました。これらと税務との関係について説明します。

 

① 受取会費

 

 正会員受取会費や賛助会員受取会費は、収益事業に該当しません。ただし、名目は会費であっても、実質は34業種の利用料に該当するものであれば、収益事業とされます。

 正会員と賛助会員との相違点は、正会員には総会の議決権があるのに対して、賛助会員にはないことです。

 

② 受取寄付金

 

 寄付金は、収益事業に該当しません。たとえ、その寄付金の使途が収益事業に充てるためのものであっても、非課税となります。

 

③ 受取助成金等

 

③-1 収益事業に該当するもの 

 国や地方公共団体などから助成金・補助金の交付を受けた場合には、取扱いが2つに分かれます。収益事業に関する収入または経費を補填するために交付を受けた助成金・補助金は、収益事業となります。

 

③-2 収益事業に該当しないもの

 固定資産の取得または改良に充てるために交付を受けた助成金・補助金は、収益事業とはされません。たとえ、その固定資産が収益事業に使用されるものであっても、非課税となります。このような助成金・補助金は、資本金のような性格とみて、優遇しているわけです。

 

④ 事業収益

 

 これはまさに、前述の収益事業課税の要件に該当するかを検討していくことになります。複数の事業を行っている場合には、事業ごとにチェックします。

 

⑤ その他収益

 

⑤-1 収益事業に該当する受取利息

 その他収益のうちには受取利息が含まれますが、受取利息については特別な取扱いがあります。収益事業の運営のために通常必要な預金からの受取利息は、収益事業に該当します。

 

⑤-2 収益事業に該当しない受取利息

 収益事業の運営のために通常必要な預金以外の預金を、非収益事業に属する資産として区分経理したときは、その資産から生じる受取利息は収益事業に含めないことができます。

 

 

・区分経理と税務

 

 法人税の申告にあたり、収益事業に関する経理と非収益事業に関する経理とを区分しなければなりません。そのため、活動計算書を収益事業部門と非収益事業部門とに分ける必要があります。その手順は、次のとおりです。

① 収益は、収益事業に関するものと非収益事業に関するものとに区分します。

② 費用のうち収益事業または非収益事業に直接生じたものは、それぞれに区分します。

③ 費用のうち収益事業と非収益事業に共通するものは、継続的に合理的な基準により配賦します。合理的な基準とは、たとえば、資産の使用割合、従業員の従事割合、収入金額の比などです。

 

 税務上は、貸借対照表も、収益事業部門と非収益事業部門とに区分することが基本です。ただし、収益事業と非収益事業とに共用されている資産については、貸借対照表では区分しないで、償却費などの費用だけを収益事業部門と非収益事業部門とに区分することも認められます。

 

 

・その他の税金

 

① 法人住民税の均等割

 法人住民税(法人都道府県民税と法人市町村民税)の均等割については、多くの自治体で、税務上の収益事業を行っていないときには免除となり、均等割がかからないようになっています。

 なお、免除の場合、毎年度免除申請が必要な自治体と、一度免除申請をすればその後の年度は申請が不要な自治体の両方があります。どの自治体も、後者にしてほしいものです。

 なお、均等割とは、法人住民税のいわば基本料金です。所得に関係なく、企業の場合には資本金等と従業者数でランク分けされた一定額となります。NPO法人の場合には、もっとも低いランクの税額が適用され、法人都道府県民税は20,000円、法人市町村民税は50,000円(60,000円の自治体も少数あります。)となっています。

 

② 印紙税

 NPO法人が収入を受け取り、領収書を発行する場合、収入印紙を貼る必要はありません。印紙税法では、「営業に関しないもの」は印紙不要となっています。NPO法人は、利益の分配が禁じられているので、収益事業に関する収入であっても、「営業に関しないもの」となるからです。

 

 

・認定NPO法人

 

 NPO法人を税務上さらに支援するため、認定NPO法人制度が設けられています。所轄庁(都道府県または政令指定都市)の認定を受けると、認定日から5年間、認定NPO法人として活動することができます(5年ごとの更新制)。

 

 認定NPO法人となるためには、次の8つの要件をすべて満たす必要があります。

① パブリック・サポート・テスト(以下、PST)に適合すること

 これについては重要なので、後述します。

② 共益的活動の割合が低いこと

 共益的活動の事業活動全体に占める割合が50%未満であること。共益的活動とは、会員等に対するサービスの提供など、活動範囲が限定的な活動をいいます。

③ 運営組織と経理が適正であること

 役員のうち親族関係等にあるものの数が役員総数の1/3以下であること。また、経理について、公認会計士・監査法人の監査を受けているか、または、青色申告法人と同等の取引記録・帳簿保存があること。

④ 事業活動の内容が適正であること

 宗教活動、政治活動を行っていないこと。役員等に特別の利益を与えていないことなどです。

⑤ 情報公開を適切に行っていること

 事業報告書、役員名簿、定款等を事務所に備え置き、請求があれば閲覧させなければなりません。

⑥ 事業報告書等を所轄庁に提出していること

⑦ 法令違反、不正の行為、公益に反する事実等がないこと

 登記の手続き、各種税金の申告・納付などを適正に行っていることが必要です。

⑧ 設立日から1年を超える期間を経過していること

 

 認定NPO法人には、税務上、次の4つの優遇措置があります。①~③は寄付者の優遇措置であり、④は認定NPO法人自身の優遇措置です。③は相続のときだけなので、毎年あるのは、①②④です。

① 個人の寄付金

 個人が認定NPO法人に寄付をした場合には、所得税と住民税において優遇されます。たとえば、所得税では、寄付者の所得から控除できる下記の①と、税額から控除できる②のいずれか有利な方を選択することができます。通常は、税額控除の方が有利です。

①-1 所得控除

(寄付金*-2,000円)=所得控除     *所得の40%が限度

①-2 税額控除

(寄付金*-2,000円)×40%=税額控除**    **年間税額の25%が限度

② 法人の寄付金

 法人が認定NPO法人に寄付をした場合には、損金算入が認められる額が多くなっています。

③ 相続税の非課税

 相続により取得した財産を認定NPO法人に寄付した場合には、相続税がかかりません。

④ みなし寄付金

 認定NPO法人の収益事業部門から非収益事業部門へ支出した金額は、収益事業において寄付金として費用とみなされます。このみなし寄付金の損金算入限度額は、所得の50%または200万円のいずれか多い額までとなっています。

 この取扱いにより、認定NPO法人においては、収益事業の所得が200万円までは実質的に非課税となります。

 

 なお、活動を始めてから日が浅く、寄付があまり集まっていない法人のために、仮認定という制度があります。設立後5年以内の法人でPST以外の7つの要件を満たしている場合には、仮認定NPO法人となることができます。有効期間は、仮認定日から3年間で、更新はありません。税務上の優遇措置は、(1)個人の寄付金、(2)法人の寄付金が適用になります((3)相続税の非課税と(4)みなし寄付金には適用がありません。)。ですから、仮認定をとってから、認定をめざすというルートもあります。

 

 

・パブリック・サポート・テスト(PST)

 

 PSTは、幅広い市民の支持を得ているかのチュックであり、認定基準の一番重要なポイントとなるものです。

 まず、PSTにおける寄付金とは、次の2つの要件を満たしたものをいいます。物品など現物の寄付も含まれます。賛助会費・助成金・協賛金などの名称でも、この2要件を満たせば、寄付金扱いが可能です。逆に、寄付金という名称でも、寄付が強制されていたり、反対給付があるものは除かれます。

 

① 支出する側に任意性があること

 寄付者自身が、寄付をするかしないかを自由に決定でき、かつ、金額も自由に決めることができること。

② 直接の反対給付(対価性)がないこと

 寄付者が、寄付金の代わりに、商業的価値を持つ物品・サービスなどを受け取らないこと。お礼状・活動報告・無料の会報などは、反対給付には該当しません。

 

 次に、PST要件の判定にあたっては、実績判定期間において、次の3つの基準のいずれかを満たすことが必要です。実績判定期間とは、認定申請を行う事業年度の直前事業年度を含む5事業年度をいいます。ただし、初回の認定申請については、直前事業年度を含む2事業年度となります。

 

① 相対値基準

 

(寄付金÷収入金額)≧20%

 実績判定期間内の収入に占める寄付金の割合が20%以上であることを求める基準です。寄付金以外の収入が多いとクリアが困難です。

 また、相対値基準の分数は簡単そうに見えますが、実際には、分子や分母からマイナスするものやプラスするものがあり、かなり複雑になっています。

 

② 絶対値基準

 

 3,000円以上の寄付者≧年平均100人

 実績判定期間内の各年度の3,000円以上の寄付者が年平均100人以上であれば、PSTをクリアします。

 これは、2012年(平成24年)4月1日から新しく導入された基準です。シンプルでわかりやすく、目標としやすい基準で、寄付金以外の収入に影響されない点もメリットです。今後、この基準で認定をとる法人が増えてくると思われます。

 

③ 条例個別指定基準

 

 都道府県・市町村の条例により、個人住民税の寄付金税額控除の対象として、個別に指定されれば、PSTが免除されます。

 

 

※本稿は、次の拙稿を加筆修正したものです。

寺田誠一稿『会計と税務の交差点スッキリ整理! 第18回 「NPO法人の税務」の基礎知識』月刊スタッフアドバイザー 2013年(平成25年)1月号

 

 

※NPO法人の会計については、「NPO法人の収支計算書と活動計算書」参照。

※非営利法人の印紙税については、「収入印紙」参照。

※非営利法人の消費税については、「非営利法人の消費税…特定収入の設例」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。