「簿記の初歩…簿記の手続、借方貸方の覚え方、仕訳のルール(きまり)」

 

2019年(令和元年)8月12日(最終更新2025年4月16日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・簿記の手続き

 

 企業などは、一定期間を区切って、活動結果を計算・集計し、外部に報告します。その一定期間(通常1年)のことを、事業年度(または会計年度会計期間)といいます。また、事業年度のはじめを期首、終わりを期末といいます。

 期末に残高のチェックを行い、その事業年度の金額を確定させ、帳簿を締め切ることを、決算といいます(月次決算を行う場合には、月初・月末ということばを用います。)。したがって、期末のことを、決算日ともいいます。

 簿記とは、帳簿記入の略称です。1事業年度の簿記の全体の手続きは、次の図のとおりです。すなわち、すべての取引を仕訳(※)し、それを総勘定元帳に転記し、その数字を集計して残高試算表を作ります。それらの数字から、貸借対照表と損益計算書(これらを、決算書財務諸表といいます。)を作成します。

 

※一般的な言葉では、「仕分け」ですが、簿記・会計では「仕訳」といいます。先人がそのような漢字を使って、そのまま踏襲されてきたのでしょう。特殊な漢字ですが、「仕訳」といえば、簿記・会計の用語だとわかるという利点があります。

 

 

 現在では、パソコンの会計ソフトが発達したため、仕訳をパソコンに入力すれば、総勘定元帳・残高試算表・貸借対照表・損益計算書を自動的に計算・集計してくれます。

 ですから、必要なのは、最初の仕訳だけです(仕訳も、自動仕訳してくれるソフトがありますが、まだ不完全で、人間が補足訂正する必要があります。)。したがって、実務上は、仕訳が大事ということになります。

  

・貸借対照表の説明

 

 まず、貸借対照表の説明からはじめます。貸借対照表とは、一定時点(決算日現在)の具体的な財産とその調達源泉を対照して示した表です。左側に具体的な財産を記載し、右側にその調達源泉を記載します。

 

(設例1)

 金融機関から借り入れた普通預金3,000千円と株主(社長)が出資した普通預金5,000千円で、会社経営を始めた。

 

 貸借対照表の左側には具体的な財産として普通預金8,000千円が、右側にはその調達源泉として金融機関からの借入金3,000千円と株主からの資本金5,000千円が記載されます。そして、左側の金額8,000千円は、右側の金額3,000千円+5,000千円と一致します。

 

(設例2)

 設例1の続きで、普通預金6,000千円で商品を仕入れて、それを7,000千円で売上げ、代金は普通預金で回収した。

 

 貸借対照表がどのように変化するかを見ていきます。まず、左側の具体的な財産ですが、1,000千円増えて9,000千円となります。一方、右側の財産の源泉は、長期借入金3,000千円と資本金5,000千円は変わりません。残り1,000千円の源泉は、6,000千円の商品を7,000千円で売ったことによる利益に由来するものです。この場合も、左側の金額9,000千円は、右側の金額3,000千円+5,000千円+1,000千円と一致します。

 

・損益計算書の説明

 

 さきほどの設例2では、貸借対照表に利益1,000千円が表示されました。しかし、貸借対照表では、利益1,000千円が普通預金という具体的な財産になっていることはわかっても、その原因がわかりません。その原因を示した表を損益計算書といいます。すなわち、損益計算書とは、利益の原因を示した表です。

 

 損益計算書は、右側に、利益の増加原因を、左側に、利益の減少原因と差額としての利益を記載します。

 設例2で損益計算書を作ると、右側には、利益の増加した原因である売上7,000千円を記載します。左側には、利益の減少した原因である仕入6,000千円を記載します。そして、金額の少ない左側に、差額1,000千円を利益として記載します。これで、左側の金額6,000千円+1,000千円は、右側の金額7,000千円と一致します。

 

・利益の表示場所は、左それとも右?

 

 利益1,000円は、貸借対照表では右側に表示されました。一方、損益計算書では左側に表示されています。利益は、左側の項目なのか、それとも右側の項目なのか、どちらと考えたらよいのでしょうか。

 

 結論からいうと、利益は右側の項目です。貸借対照表の右側に利益1,000千円を記載することによって、普通預金9,000千円のうち1,000千円の源泉は利益であることを示しています。

 損益計算書で考えても、売上7,000千円から仕入6,000千円を差し引いた部分が利益です。つまり、右側です。それを、貸借対照表の右側に移動させたと考えることができます。

 

 右側項目なのにもかかわらず、損益計算書で利益が左側に表示されるのはなぜでしょう。それは、左右を合わせるため、金額の少ない左側に利益を記載するためです。本来、左側という理由ではなく、左右を一致させるという計算技術的な理由からです。

  

 なお、損失の場合には、利益の場合と逆になり、左側の項目となります(損益計算書では右側に表示)。

 

 実務上は、簿記・会計に詳しくない方のことを考慮して、損益計算書は、左右ではなく、上下に示すことが一般的です(

左右に示す損益計算書を勘定式、上下に示す損益計算書を報告式といいます。)。

 

 ・借方、貸方の意味

 

 今まで、左側と右側ということで説明してきましたが、簿記では借方(かりかた)貸方(かしかた)という用語を使います。「貸借(たいしゃく)が合わない」といえば、左側と右側が合わないという意味です。

 

 借方・貸方のもとの意味は、15世紀にイタリアで簿記が発明された頃にさかのぼります。その頃、相手先ごとに個人別の帳簿を付けており、たとえば、甲にお金を貸した場合には、個人別帳簿の甲のページの左側に記入し、甲が借り主であることを示しました。これが借方の起源です。

 また、乙からお金を借りた場合には、個人別帳簿の乙のページの右側に記入し、乙が貸し主であることを示しました。これが、貸方の起源です。

 

 現在では、借方・貸方は、単に、左側・右側を意味しているだけですが、簿記や会計・経理では、慣例として、今でも、借方・貸方という語が用いられます。ですから、借方とは左側のこと、貸方とは右側のこと、と覚えておく必要があります。

 

 

・借方、貸方の覚え方

 

 簿記の初心者は、借方が左、貸方が右と覚えるのに、なかなか苦労します。この覚え方には、いろいろな方法がありますが、そのうち3つご紹介します。。

 

① 「かかた」の「」は「ひだ」の「」、「かかた」の「」は「み」の「」の一部と覚える方法。

 

 

② 神社の鳥居(とりい)(または、漢字の「火」「天」「人」)の連想で、「かかた」は左、「かかた」は右と覚える方法。

 

③ ②と同様ですが、さらに単純に、「かかた」の「」の字 は左にカーブしている(はねている)、「かかた」の「」の字は右にカーブしている(はねている)と覚える方法。

  

 

・資産、負債、資本、収益、費用

 

 貸借対照表は、ある一定時点の会社の財産とその財産がどこからきたのかという源泉(財源)を示しています。借方(左側)の具体的な財産のことを、資産といいます。

 

 貸方(右側)は、資産の調達源泉(財源)です。この源泉を、2つに分けます。負債と資本です。負債は、将来の支払義務などを有するのに対して、資本にはそのような義務はありません。資本(純資産)とは、株主の出資した資本金や、過去および当期の利益などです(厳密にいうと資本と純資産は異なりますが、それは学習が進んでからのテーマです。)。資産と負債・資本(純資産)との関係は、次の式のように表すことができます。

資産=負債+資本(純資産)

  

 損益計算書は、貸借対照表の利益の内訳であり、利益の生じた原因を示しています。損益計算書の貸方(右側)の利益の増加原因を、収益といいます。借方(左側)の利益の減少原因を、費用といいます。収益から費用を差し引いて、利益が算出されます。

 

 損益計算書では、収益から費用を差し引いて利益を算出するという、いわば総額で利益をとらえています。それに対して、貸借対照表では、損益計算書で計算された結果の利益だけを、純額で、資本の1項目として掲げていると考えることができます。

 

 

・仕訳のルール(きまり、規則、原理)

 

 「しわけ」は一般的な言葉では「仕分け」ですが、簿記・会計では「仕訳」といいます。先人がそのような言葉を使って、そのまま踏襲されてきたのでしょう。「仕訳」というと、簿記・会計の用語だとわかります。

 

 仕訳とは、取引を借方(左側)と貸方(右側)とに分けて、記入することです。仕訳では、「仕訳のル-ル(きまり、規則、原理)」が大事です。

 

 私(寺田)は、仕訳のルールを、次の「本来の場所のルール」と「増減のルール」の2つで覚えるのが、わかりやすいと思っています。

 

① 本来の場所のルール

 

 貸借対照表の構造が、資産・負債・資本の本来の場所を示しています。「資産は、本来の場所が借方(左側)」、「負債は、本来の場所が貸方(右側)」、「資本は、本来の場所が貸方(右側)」ということです。

 

 一方、損益計算書の構造が、収益・費用の本来の場所を示しています。「収益は、本来の場所が貸方(右側)」「費用は、本来の場所が借方(左側)」ということです。

 

 以上をまとめると、「資産・費用は、本来の場所が借方(左側)」、「負債・資本・収益は、本来の場所が貸方(右側)」となります。

 

 これが、仕訳のル-ルの1番目である「本来の場所のルール」です。本来の場所といっても、借方(左側)と貸方(右側)の2つしかありません。資産・負債・資本・収益・費用の本来の場所は、必ず、借方(左側)か貸方(右側)のどちらかになります。

 

 

② 増減のルール

 

 次は、仕訳のル-ルの2番目である「増減のルール」です。「増加したときには、本来の場所に記入」し、「減少したときには、本来の場所の反対側に記入」するということです。本来の場所とかその反対側といっても、借方(左側)と貸方(右側)の2つしかありません。

 

 具体的にいうと、資産・費用は、本来の場所が借方(左側)なので、増加したときには、本来の場所である借方(左側)に記入します。一方、資産・費用が減少したときには、本来の場所の反対側である貸方(右側)に記入します。

 

 

 負債・資本・収益は、本来の場所が貸方(右側)なので、増加したときには、本来の場所である貸方(右側)に記入します。負債・資本・収益が減少したときには、本来の場所の反対側である借方(左側)に記入します。 

 

 

 

 最後に、もう一度繰り返すと、「資産・費用は、本来の場所が借方(左側)、負債・資本・収益は本来の場所が貸方(右側)、そして、増加したときは本来の場所に記入、減少したときは本来の場所の反対側に記入」です。具体的には、次の貸借対照表と損益計算書のイメージ図が、頭の中に浮かぶようにするとよいでしょう。

 

 

・なぜ資産は借方(左側)?

 

 仕訳のル-ルの1番目の「本来の場所」ですが、負債・資本・収益を借方(左側)とし、資産・費用を貸方(右側)とする、つまり現在のやりかたとすべて左右を逆にする方法も可能です。現在の貸借対照表・損益計算書の左右を逆にしても、簿記の原理は成り立ちます。

 

 では、なぜ、現在のような本来の場所になったのでしょうか。文献を調べたわけではなく、あくまで推測ですが、私は次のような理由ではないかと思っています。

 

 欧米人は、横書きで、左から右に文字を書きます(右利きの人にとっては、左から右に書く方が書きやすいからでしょう。)。ですから、左が先で、右が後という感覚があると思われます。15世紀イタリアで簿記が考えられたとき、一番の関心事は、おかねや品物だったと思います。よって、現金や商品が入ってきたとき左、出ていったとき右、つまり資産の本来の場所を左側としたのではないでしょうか。

 

 資産の本来の場所を左側と決めれば、後は必然的に、資産の源泉(財源)である負債・資本の本来の場所は右側と決まります。収益は、資本の一部である利益の増加原因なので、本来の場所は、資本と同じ右側です。費用は、利益の減少原因なので、本来の場所は、収益と反対側の左側と決まります。

 

 

※本稿は、次の拙著・拙稿をもとに、大幅に加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第1章 会計学のための簿記入門」

寺田誠一著『事典 はじめてでもわかる簿記』中央経済社1997年 「第1章 簿記は仕訳から」

寺田誠一稿『聞くに聞けない会社経理のキホン 第1回 経理課の役割と簿記の基本』月刊スタッフアドバイザー 2004年10月号

 

 

※仕訳から試算表・決算書を作る設例については、「決算書の作成方法の設例」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。