「一括償却資産・固定資産税・不動産取得税・事業所税の会計と税務…損金算入の設例」

 

2021年(令和3年)8月29日(最終更新2025年5月26日)

公認会計士・税理士 寺田 誠一

 

 

・減価償却資産の取得価額別の各種処理

 

 固定資産(減価償却資産)のうち、取得価額が10万円未満のものについては、税務上(法人税・所得税)、一時(いちじ)の損金算入(勘定科目は、消耗品費など)が認められています。その場合、固定資産ではないので、固定資産税は課税されません。

 

 10万円以上のものについては、原則、固定資産計上して減価償却していくことになります(固定資産税も税率1.4%で課税されます。)。

 

 ただし、固定資産計上の例外が2つあります。

 

① 少額減価償却資産(中小企業等の少額特例)

 

 青色申告を行っている従業員500人以下の中小企業(資本金1億円以下)等に限って適用可能です。固定資産(減価償却資産)のうち30万円未満のものについて、一時の損金算入(勘定科目は消耗品費など)が可能という制度です(1事業年度300万円まで)(※1)。

 この中小企業等の少額特例を適用しても、固定資産税は課税されます。

 

② 一括償却資産(3年一括償却の特例)

 

 どの企業も、適用可能です。固定資産(減価償却資産)のうち、取得価額が20万円未満のものについて、3年一括償却という制度を選択することができます(※1)。20万円未満の任意(※2)の各資産を個別管理しないで合算して、耐用年数に関係なく、取得(事業の用に供した)年度を含めて、3年間で1/3(※3)ずつ均等に損金に計上していくものです。取得年度も、月割計算しないで、1年分の損金が認められます。

 この制度は、10万円未満の一時の損金算入可能制度のいわば延長戦上の制度です。違いは、一時ではなく、3年間でという点です。したがって、この3年一括償却制度を適用した場合には、固定資産税は課税されません。すなわち、固定資産税の節税になります。

 

※1:貸付資産(リース資産)は、少額減価償却資産と一括償却資産の対象とはなりません(ただし、主要な事業が貸付業(リース業)である場合を除きます。)。つまり、主要な事業が貸付業でない場合の貸付資産は、これらの制度の対象となりません。

※2:ある20万円未満の資産について、固定資産計上するか、3年一括償却するか、さらに中小企業等では一時の損金とするかは、その企業の自由です。

※3:12か月に満たない事業年度がある場合には、その事業年度の月数/36か月となります。

 

 3年一括償却を適用した場合には、途中で売却・廃棄しても、その時点で売却損・除却損を計上することはできなく、規則的・均等に3年間の損金を続けていきます。

 一括償却資産で3年の償却を選択した資産については、次年度以降、通常の減価償却計算に変更することはできません。

 

 仕訳をするとき、資産の勘定科目は「一括償却資産」とします。貸借対照表の表示は、有形固定資産や無形固定資産の該当項目に含めます(通常は、工具器具備品が多いと思われます。)。

 

 非常にレアケースですが、10万円未満のものについても、固定資産計上は可能ですが、その場合、固定資産税が課税されます。また、10万円未満であっても、3年一括償却制度を選択することもできますが、その場合には、固定資産税は課税されません。

 

 以上を表にまとめると、次のとおりです。

 

法人税・所得税

固定資産税

10万円未満

一時の損金

 

3年一括償却

 

固定資産・減価償却

10万円以上20万円未満

(中小企業)一時の損金

 

3年一括償却

 

固定資産・減価償却

20万円以上30万円未満

(中小企業)一時の損金

 

固定資産・減価償却

30万円以上

固定資産・減価償却

 

〇:固定資産税の課税対象、✕:固定資産税の課税対象外

 

 この表について、コメントしておきます。

 まず、10万円未満の場合には、一時の損金とします。

 10万円以上20万円未満の場合には、中小企業等で一時の損金が可能ならばそれを選びます。会計処理の簡便さや早期の損金計上による法人税・所得税の節税というメリットがあります。デメリットは固定資産が課税されることですが、低い税率と免税点があることを考えると、それほど負担にはならないと思われます。

 10万円以上20万円未満で中小企業等の一時損金に該当しない場合には、3年一括償却を選ぶ方がよいでしょう。3年一括償却は、定額法・期首取得・耐用年数3年・残存価額0の減価償却と計算が同じであり、非常に簡便です。3年は、各資産の個々の耐用年数より短いことが多いと思われるので、通常の減価償却よりも損金計上が早くなります。固定資産税も課税されません。

 10万円以上20万円未満で、中小企業等の一時の損金と3年一括償却のいずれも選択しない場合には、通常の固定資産計上・減価償却となります。

 20万円以上30万円未満の場合には、中小企業等で一時の損金が可能ならばそれを選びます。該当しなければ、通常の固定資産計上・減価償却となります。

 30万円以上の場合には、通常の固定資産計上・減価償却となります。

 

 

・一括償却資産の会計処理

 

 さて、一括償却資産の会計処理には、次の2とおりの方法があります。

① 決算調整方式

 その年度の一括償却資産に計上したものを集計し、各年度の決算整理で1/3ずつを減価償却費計上します。会計上の仕訳で完結し簡便なので、通常、この処理が採られると思います。また、個人事業は、法人税申告書がないので申告調整方式が採れず、必然的に決算調整方式によることになります。

 したがって、決算調整方式が原則的処理と考えてよいと思います

 

② 申告調整方式

 一括償却資産を消耗品費などに全額計上し、各年度の税務上の所得が決算調整方式と同じ結果になるように、法人税申告書で調整します。

 申告調整方式は、法人税申告書の記入が必要となり手数がかかるので、例外的処理と考えられます。

 

(設例)

 ✕1年の期中に、165,000円(うち消費税15,000円)の車両(バイク)を現金で購入した。また、期中に132,000円(うち消費税12,000円)の器具備品(パソコン)を現金で購入した。3年一括償却制度を適用することとした。✕2年に、車両を88,000円(うち消費税8,000円)で売却し現金を受け取った。3年間の税抜経理方式(消費税別記入力)の仕訳は、どのようになりますか。

 

(第1法)決算調整方式

✕1年:(借)一括償却資産 150,000 (貸)現  金  165,000

     仮払消費税   15,000

    (借)一括償却資産 120,000 (貸)現  金   132,000

     仮払消費税   12,000

      (借)減価償却費    90,000 (貸)一括償却資産 90,000

 

✕2年:(借)現  金  88,000 (貸)固定資産売却益 80,000

                    仮受消費税      8,000

    (借)減価償却費 90,000 (貸)一括償却資産   90,000

 

✕3年:(借)減価償却費 90,000 (貸) )一括償却資産 90,000

 

(第2法)申告調整方式

✕1年:(借)消耗品費 150,000 (貸)現  金 165,000

     仮払消費税 15,000

          (借)消耗品費 120,000 (貸)現  金 132,000

     仮払消費税 12,000

 

✕2年:(借)現  金   88,000 (貸)固定資産売却益 80,000

                    仮受消費税     8,000

 

✕3年:仕訳なし

 

 第2法(申告調整方式)を採った場合の、各期の法人税申告書を示してみます。

 

第✕1期の別表四

       

  

       

  

社外流出

当期利益

 

 

 

加算

一括償却資産否認

180,000

180,000

 

減算

 

 

 

 

所得金額

 

 

 

 

第✕1期の別表五()

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

一括償却資産

 

 

180,000

180,000

 

 

 

 

 

 

 

第✕2期の別表四

       

  

        

  

社外流出

当期利益

 

 

 

加算

 

 

 

 

減算

一括償却資産認容

90,000

90,000

 

所得金額

 

 

 

 

第✕2期の別表五()

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

一括償却資産

180,000

90,000

 

90,000

 

 

 

 

 

 

 

第✕3期の別表四

       

  

       

  

社外流出

当期利益

 

 

 

加算

 

 

 

 

減算

一括償却資産認容

90,000

90,000

 

所得金額

 

 

 

 

第✕3期の別表五()

     

期首利益積立金

当期の増減

翌期首利益積立金

    減

    増

一括償却資産

90,000

90,000

 

0

 

 

 

 

 

 

 

 

 第1法(決算調整方式)では、✕1年度の一括償却資産の計上額合計が270,000円なので、各年度の決算整理でその1/3の90,000円を減価償却費として計上します。

 

 第2法(申告調整方式)では、一括償却資産を消耗品費に全額計上し、税務上、第1法と同じ結果になるように、各年度の法人税申告書で調整します。

 具体的には、第✕1期の損金は90,000円です。しかし、第2法では消耗品費を270,000円計上しているので、申告書で利益に180,000円プラスします。その結果、税務上の所得は、第1法と同じ90,000円になります。

 第✕2期と✕3期の損金も、それぞれ90,000円です。しかし、会計上は費用計上がないので、申告書で利益から90,000円マイナスします。

 

 X2年のように売却除却があっても、個々の資産の減価償却は行わないので、第1法・第2法いずれも、売却損除却損は計上されません。

  

 

・固定資産税、都市計画税

 

 固定資産税は、毎年、1月1日現在の固定資産の所有者に対して課税される税金です。都市計画税は、毎年、1月1日現在の市街化区域内などの土地・建物(家屋)の所有者に対して課税される税金です。固定資産税・都市計画税は、国税ではなく地方税(市町村税)です(東京23区では都税。)。市町村が税額を決め(「賦課決定」といいます。)、納税者に通知します。

 固定資産税・都市計画税は、資産の存在する市町村ごとに、計算し課税されます。固定資産税評価額(時価の70%程度とされてぃます。)に税率を乗じて税額が算出されます。税率は、固定資産税1.4%、都市計画税0.3%です。

 

 固定資産税は、土地・建物(家屋)と償却資産とに分かれます。土地・建物(家屋)は市町村が最初から独自に調べて課税しますが、償却資産は納税者がまず申告します。。

 

 償却資産とは、構築物・機械装置・工具器具備品などをいいます。車両運搬具は、自動車税・軽自動車税が課税されるので、固定資産税は課税されません。

 償却資産に関する固定資産税は、取得価額から減価償却累計額を差し引いた額を課税標準とし、それに1.4%をかけます。ただし、原則として、減価償却の計算は市町村で行うので、資産の名称・取得年月・取得価額・耐用年数などだけの申告となります。仮に企業が決算で減価償却費を過少または0とした年度があったとしても、市町村は通常どおり減価償却を行ったとして課税標準を計算してくれます。

 償却資産の申告は、資産の存在する市町村ごとに行います。そして、各市町村ごとに150万円という免税点があります。各市町村の課税標準が150万円未満の場合には、申告や納税の必要はありません。複数の市町村の課税標準を合計すると150万円以上であっても、1つの市町村の課税標準が150万円未満の場合には課税されません。したがって、当初は課税されても、償却が進んでいくと150万円未満となって課税されなくなる場合もあります。

  

 不動産売買取引のとき、買主から売主に、売買日から12月31日までの固定資産税・都市計画税の按分額が支払われるのが慣習となっています。ただし、これは、固定資産税・都市計画税そのものではなく、あくまで固定資産税・都市計画税相当額であり、不動産の売買金額の一部とされます。買主の会計処理は、租税公課ではなく、土地または建物の取得価額とします(売主の会計処理は、売上などの一部とします。)。

  

 固定資産税(土地・建物)と都市計画税とを合計した納付書は、市町村から4月頃に送られてきます。それを第1期~第4期の年4回で分割して納めるか、または、全額を1回で納めます(納付書は、分割払い用と一括払い用の両方送られてきます)。なお、第1期~第4期の分け方は6月・9月・12月・翌年2月などですが、市町村により異なります。現在は、分割払いと一括払いとで、同じ税額です(かつては、一括払いすると少し減額されました。)。

  固定資産税(償却資産)の納付書も、別個に、市町村から4月頃送られてきます。年4回の分割が可能なのは、固定資産税(土地・建物)・都市計画税と同じです。

 

 固定資産税(土地建物、償却資産)と都市計画税の会計上の勘定科目は租税公課(または公租公課)です。損益計算書の販売費及び一般管理費(以下、販管費と略します。)に記載します。製造業において工場などに課税されるものには、製造原価に算入します(製造原価報告書の経費に記載。)。

 

 固定資産税・都市計画税の税務上の損金計上時期は、次の3種類認められています(法人税基本通達9-5-1)。

① 市町村が税額を決定する賦課決定のあった事業年度

② 4回で分割払いするときは、それぞれの納期の開始の日の属する事業年度

③ 実際の納付日の属する事業年度

 

 これらの損金算入時期を踏まえて、設例を作ってみました。

 

(設例1)

 4月に本社事務所に関する固定資産税・都市計画税の納税通知・納付書が届いた。金額は120,000円(したがって、4回に分割すると、各30,000円。)。分割払いは、第1期4~6月(納期限6月末)、第2期7~9月(納期限9月末)、第3期10~12月(納期限12月末)、第4期1~2月(納期限2月末)とする。

 

(第1法)未払金を計上し、一括払いする方法

4 月 :(借)租税公課 120,000 (貸)未払金  120,000

納付時:(借)未払金    120,000 (貸)普通預金 120,000

 

(第2法)未払金を計上しないで、一括払いする方法

納付時:(借)租税公課   120,000 (貸)普通預金 120,000

  

(第3法)未払金を計上し、分割払いする方法

4 月  :(借)租税公課 120,000 (貸)未払金 120,000

各納付時:(借)未払金    30,000 (貸)普通預金  30,000

  

(第4法)未払金を計上しないで、分割払いする方法

各納付時:(借)租税公課   30,000 (貸)普通預金 30,000

 

 第1法から第4法の処理は、企業の事業年度が何月決算であろうとも、税務上の損金計上時期①または③により、販管費の租税公課が損金となります。

 

 (設例2)

 12月決算の企業が、上記設例1の分割払いを選択していた。第1期と第2期は期限内に納付したが、第3期分は12月までに納付しなかった。

 

12月決算時:(借)租税公課 30,000 (貸)未払金 30,000 

 

 設例2では、納期の開始日すなわち10月1日の属する事業年度に第3期分が未払計上されているので、その30,000円が損金となります。ただし、12月の段階では第4期分(1~2月)の納期は開始していないので、第4期分の30,000円まで未払計上しても、それは損金となりません。いずれにしても、税務上の損金計上時期②を使うのは、レアケースと考えられます。

 

 

 ・不動産取得税

 

 不動産取得税は、不動産(土地・建物など)を取得したときに課税される地方税(都道府県税)です(有償・無償、登記の有無を問いません)。固定資産税評価額に税率を乗じて、税額が算出されます。税率は土地・住宅用の建物(家屋)は3%、住宅用以外の建物(家屋)は4%です。なお、各種の特例や減額措置があります。

 不動産取得税の課税は、取得時に1回限りです。毎年課税される固定資産税・都市計画税との相違点です。

  

 不動産取得税は、会計の教科書的には、土地建物の取得価額に算入すると説明されます。しかし、不動産取得税の納付書が都道府県より送られてくるのは、不動産を取得してから1年くらい経ってからです。翌事業年度となっていることが通例です。翌期に、不動産取得税の額だけ土地建物の取得価額を増額するというのは、実務上、抵抗のある考え方です(建物の場合には、減価償却がすでに始まっています。)。

 

 税務は、都道府県が税額を決定(賦課決定)した事業年度に損金算入するとしています(法人税基本通達9-5-1)。よって、実務上は、税務が認めていることもあり、不動産取得税は土地建物の取得価額には算入しないで、通常、費用処理しています。

 費用処理したときの勘定科目は租税公課とし、損益計算書の表示は販管費とします。製造業において工場の取得などに課税されるものは、製造原価に算入します(製造原価報告書の経費に記載。)。

 

 (設例)

 本社事務所用の不動産を取得した。

① 決算を迎えたが、不動産取得税の納付書はまだ届いていない(したがって、不動産取得税の金額は不明)。

② 翌事業年度に、都道府県より、不動産取得税の納付書500,000円が届き、普通預金で納付した。

 

① 仕訳なし

②(借)租税公課 500,000 (貸)普通預金 500,000

 

 

・事業所税

 

 事業所税は、大都市の都市環境の整備・改善に要する費用に充てるための地方税(市町村税)です(東京23区では都税。)。東京23区など、人口30万人以上の都市にある事業所に課税されます。

 計算方法は、都市ごとに、次のようになります。

資産割(床面積×600円)+従業者割(給与総額×0.25/100)

 なお、免税点があり、資産割は事業所の合計床面積が1,000㎡以下、従業者割は従業者数100人以下の場合には、課税されません。したがって、中小企業には、課税されないことが多いと思われます。

 

 事業所税の会計上の勘定科目は租税公課とし、損益計算書の販管費に表示します。製造業において工場などに課税されるものには、製造原価に算入されます(製造原価報告書の経費に記載。)。事業所税の未納付額は、貸借対照表において未払金の内に含めます。金額が多額の場合には、単独の未払事業所税などとします。

 

 事業所税は、納税者(企業や個人事業者など)が申告して納付します。期限は、決算日の翌日から2か月以内です。つまり、法人税・法人住民税・法人事業税・消費税と同じです(ただし、申告期限の延長制度はありません。)。

 

 税務上は、事業所税の申告書を提出した事業年度において損金に算入されます。したがって、未払計上は損金となりません(法人税申告書で加算します)。翌期の納付時に、損金となります(ここまでは事業税と同じですが、事業所税には、事業税と異なり、中間申告はありません。)。中小企業においては、重要性の原則を適用して、未払計上しないこともあると思われます。

 なお、製造原価に算入される事業所税を未払計上した場合には、その部分に限り損金算入が認められています(法人税基本通達9-5-1)。つまり、法人税申告書の加算が不要です。損金不算入とした場合には、期末の仕掛品や製品は損金となっていないので、売上原価に算入された事業所税を算出する必要があります。事業所税の調整計算が複雑になるので、納税者の事務手数に配慮した規定です。

 

   

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。