「渡部昇一先生と小林正観先生」

 

2023年(令和5年)9月25日(最終更新2023年10月10日)

寺田 誠一

 

 私が、渡部昇一先生を知ったのは、1974年に文藝春秋より上梓された『文化の時代』という評論集を読んでです(この本が、渡部先生の最初の市販の著作ではないかと思います。)。渡部先生は、『文科の時代』『腐敗の時代』『正義の時代』という文藝春秋からの3部作で論壇にデビューされました。その頃、私はまだ20代でしたが、すごい博学の方がいらっしゃるものだと驚嘆した記憶があります。3部作の頃から渡部先生に注目していたのは、(僭越ではありますが)目が高かったと私はひそかに自慢しています。

 渡部先生のその後の英語教育・知的生活・歴史教科書(自虐史観)問題などのご活躍に、また、カトリック信者でありながら日本精神・東洋思想にも造詣が深い幅の広さに、私は敬服しています。

 

 なお、私が、渡部先生で一番驚いたのは、「大島淳一」が渡部先生のペンネームだったことです!潜在意識を活用した成功哲学提唱の1人にJ.マーフィー博士がいますが、日本における最初の翻訳は、産業能率短大出版部の『眠りながら成功する』だと思います。その翻訳者が大島淳一氏となっていました。時期は忘れましたが、あるとき、渡部先生が「大島淳一」は自分のペンネームだということを公表され、私は思いもよらないことでびっくりしました。でも、確かに、マーフィー理論は、渡部先生の考え方の中に取り入れられていると思いました。

 

 私の蔵書(というほどの量ではないのですが)の中で双璧(数が多い)は、渡部昇一先生と小林正観先生の著書です。渡部先生の本は上記の3部作をはじめ数十冊持っていますが、全部ではないと思います。一方、小林正観先生は、生前、上梓された本はすべて揃えています(私のちょっとした自慢です!)。

 

 人生の目的は、心や魂の成長・修行というのが、精神世界や人間学などを学ばれている方の多数説だと思います。それに加えて、小林正観先生は、人生は楽しむもの・人生は喜ばれるためというユニークな視点を示されたと私は思っています。

 

 小林先生の、「ありがとう(感謝)」、「現象は中立」、「う・た・し(うれしい、たのしい、しあわせ)」、「き・く・あ(きそわない、くらべない、あらそわない)」、「と・し・こ(とらわれない、しばられない、こだわらない)」などは、ぜひ実践したいものです

 

 なかでも、小林先生の「今日という日」の考えには、とても励まされています。今日を含めた過去で、「今日」は自分の人生の最古参、最長老。したがって、今日下した判断は100%正しい(将来、未熟な判断だったと思うということは、自分が成長したということ。)。一方、今日を含めた未来で、「今日」は自分の人生でもっとも未熟な者、最若年者。だから、さらに向上しよう、自分を磨こうということになります。

 

 渡部先生の講演会には1度、小林先生の講演会には2度、出席したことがあります。両先生とも亡くなられたので、かつて講演会で直接お話を聞けたことは、生涯の喜びです。