「A4 1枚でわかる簿記③…仕訳のルール(きまり)」

 

2019年(令和元年)8月20日(最終更新2023年11月19日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・資産、負債、資本、収益、費用

 

 貸借対照表は、ある一定時点の会社の財産とその財産がどこからきたのかという源泉(財源)を示しています。借方(左側)の具体的な財産のことを、資産といいます。

 

 貸方(右側)は、資産の調達源泉(財源)です。この源泉を、2つに分けます。負債と資本です。負債は、将来の支払義務などを有するのに対して、資本にはそのような義務はありません。資本(純資産)とは、株主の出資した資本金や、過去および当期の利益などです(厳密にいうと資本と純資産は異なりますが、それは学習が進んでからのテーマです。)。資産と負債・資本(純資産)との関係は、次の式のように表すことができます。

資産=負債+資本(純資産)

  

 損益計算書は、貸借対照表の利益の内訳であり、利益の生じた原因を示しています。損益計算書の貸方(右側)の利益の増加原因を、収益といいます。借方(左側)の利益の減少原因を、費用といいます。収益から費用を差し引いて、利益が算出されます。

 

 損益計算書では、収益から費用を差し引いて利益を算出するという、いわば総額で利益をとらえています。それに対して、貸借対照表では、損益計算書で計算された結果の利益だけを、純額で、資本の1項目として掲げていると考えることができます。

 

・仕訳のルール(きまり、規則、原理)

 

 「しわけ」は一般的な言葉では「仕分け」ですが、簿記・会計では「仕訳」といいます。先人がそのような言葉を使って、そのまま踏襲されてきたのでしょう。「仕訳」というと、簿記・会計の用語だとわかります。

 

 仕訳とは、取引を借方(左側)と貸方(右側)とに分けて、記入することです。仕訳では、「仕訳のル-ル(きまり、規則、原理)」が大事です。

 

 私は、仕訳のルールを、次の「本来の場所のルール」と「増減のルール」の2つで覚えるのが、わかりやすいと思っています。

 

① 本来の場所のルール

 

 貸借対照表の構造が、資産・負債・資本の本来の場所を示しています。「資産は、本来の場所が借方(左側)」、「負債は、本来の場所が貸方(右側)」、「資本は、本来の場所が貸方(右側)」ということです。

 

 一方、損益計算書の構造が、収益・費用の本来の場所を示しています。「収益は、本来の場所が貸方(右側)」「費用は、本来の場所が借方(左側)」ということです。

 

 以上をまとめると、「資産・費用は、本来の場所が借方(左側)」、「負債・資本・収益は、本来の場所が貸方(右側)」となります。

 

 これが、仕訳のル-ルの1番目である「本来の場所のルール」です。本来の場所といっても、借方(左側)と貸方(右側)の2つしかありません。資産・負債・資本・収益・費用の本来の場所は、必ず、借方(左側)か貸方(右側)のどちらかになります。

 

 

② 増減のルール

 

 次は、仕訳のル-ルの2番目である「増減のルール」です。「増加したときには、本来の場所に記入」し、「減少したときには、本来の場所の反対側に記入」するということです。本来の場所とかその反対側といっても、借方(左側)と貸方(右側)の2つしかありません。

 

 具体的にいうと、資産・費用は、本来の場所が借方(左側)なので、増加したときには、本来の場所である借方(左側)に記入します。一方、資産・費用が減少したときには、本来の場所の反対側である貸方(右側)に記入します。

 

 

 負債・資本・収益は、本来の場所が貸方(右側)なので、増加したときには、本来の場所である貸方(右側)に記入します。負債・資本・収益が減少したときには、本来の場所の反対側である借方(左側)に記入します。 

 

 

 

 最後に、もう一度繰り返すと、「資産・費用は、本来の場所が借方(左側)、負債・資本・収益は本来の場所が貸方(右側)、そして、増加したときは本来の場所に記入、減少したときは本来の場所の反対側に記入」です。具体的には、次の貸借対照表と損益計算書のイメージ図が、頭の中に浮かぶようにするとよいでしょう。

 

 

・なぜ資産は借方(左側)?

 

 仕訳のル-ルの1番目の「本来の場所」ですが、負債・資本・収益を借方(左側)とし、資産・費用を貸方(右側)とする、つまり現在のやりかたとすべて左右を逆にする方法も可能です。現在の貸借対照表・損益計算書の左右を逆にしても、簿記の原理は成り立ちます。

 

 では、なぜ、現在のような本来の場所になったのでしょうか。文献を調べたわけではなく、あくまで推測ですが、私は次のような理由ではないかと思っています。

 

 欧米人は、横書きで、左から右に文字を書きます(右利きの人にとっては、左から右に書く方が書きやすいからでしょう。)。ですから、左が先で、右が後という感覚があると思われます。15世紀イタリアで簿記が考えられたとき、一番の関心事は、おかねや品物だったと思います。よって、現金や商品が入ってきたとき左、出ていったとき右、つまり資産の本来の場所を左側としたのではないでしょうか。

 

 資産の本来の場所を左側と決めれば、後は必然的に、資産の源泉(財源)である負債・資本の本来の場所は右側と決まります。収益は、資本の一部である利益の増加原因なので、本来の場所は、資本と同じ右側です。費用は、利益の減少原因なので、本来の場所は、収益と反対側の左側と決まります。

 

 

※本稿は、次の拙著・拙稿をもとに、大幅に加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第1章 会計学のための簿記入門」

寺田誠一著『事典 はじめてでもわかる簿記』中央経済社1997年 「第2章 仕訳から財務諸表の作成へ」

寺田誠一稿『聞くに聞けない会社経理のキホン 第1回 経理課の役割と簿記の基本』月刊スタッフアドバイザー 2004年10月号

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。