「振込手数料の会計処理(仕訳)」

 

2020年(令和2年)1月4日(最終更新2023年2月24日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・振込手数料の負担先――受取側(売り手)か、それとも支払側(買い手)か

 

    代金の決済には、振込がよく使われます。振込をする場合には、金融機関の手数料、すなわち振込手数料がかかります。それを負担するのは、受取側(売り手)かそれとも支払側(買い手)かという問題があります。

 受取側(売り手)が振込手数料を負担する場合には、代金から振込手数料を差し引かれた額が振り込まれます。受取側は、振込手数料の金額だけ少ない入金となります。支払側(買い手)が振込手数料を負担する場合は、代金がそのまま振り込まれます。

 

 実務では、今まで、振込手数料を差し引く、すなわち受取側が負担することが多かったと思います。受取側が営業マンなどを使って集金する場合には、集金のためのコストがかかります。振込の場合には受取側にその集金コストがかからないので、その代わり振込手数料を負担するという考え方だと思います。

 近年は、振込手数料を差し引かないで、支払側が負担するケースも多くなってきました。「振込手数料は、お客様負担でお願いします。」「振込手数料は、御社にてご負担願います。」などと付記し、つまり振込手数料を差し引かないで請求額そのまま振り込むよう依頼する請求書も増えてきました(振込手数料が少額になってきたということもあると思います。)。

 

 なお、次のようなものは、振込手数料を差し引かないで請求額をそのまま支払う、すなわち支払側が負担するという慣例になっているようです。

① 各種団体の会費

② 土地や建物の地代家賃

③ 弁護士・公認会計士・税理士・司法書士・社会保険労務士など各種専門家(士業) の報酬

 

 振込手数料を仕訳(会計処理)するににあたり、費用の勘定科目は、支払手数料のほかに通信費雑費も考えられますが、本稿では、「支払手数料」で統一しました。また、実務上、振込手数料は、消費税法上の「課税仕入れ」(または「課税売上げ」のマイナス)となり、消費税がかかります(本稿末尾の「インボイス制度と受取側(売り手)負担の振込手数料」参照)。

 

 

・仕訳による説明――受取側(売り手)が振込手数料を負担する場合

 

(受取側の処理…売上代金)

 まず、振込手数料を差し引かれて代金が振り込まれる受取側の処理を考えてみます。

 

(設例)

 得意先より売上代金80,000円が、振込手数料500円を差し引かれ、普通預金に79,500円振り込まれた。

 

 売掛金を計上している場合には、売掛金の入金処理となり、次のような仕訳となります。

(借)普通預金    79,500 (貸)売掛金 80,000

    支払手数料   500

 売掛金を計上していない場合には、売上を計上します。

(借)普通預金    79,500 (貸)売  上 80,000

      支払手数料     500

 

    振込手数料500円は、受取側が支払ったものではなく、支払側が金融機関に支払ったものです。しかし、その分、受取側への振込金額が少なくなっています。結局、受取側が負担していることになり、受取側における費用となります。

 

 振込手数料が受取側(売り手)負担の場合には、差し引かれた額が実額であっても、費用科目(支払手数料・通信費・雑費)ではなく、売上金額の修正(売上高のマイナス)という考え方もあります。

 この考え方では、上記の例は、次のようになります。

(借)普通預金    79,500 (貸)売掛金 80,000

      売上値引      500

(借)普通預金    79,500  (貸)売  上 80,000

      売上値引        500

  

(支払側の処理…仕入代金)

 上記の設例を、反対側すなわち支払側の立場から見てみます。

 

(設例)

 仕入先に仕入代金80,000円を、振込手数料500円を差し引き、79,500円普通預金より振り込んだ。振込手数料500円は、普通預金より金融機関に支払った。

 

 買掛金を計上している場合には、買掛金の支払処理となり、次のような仕訳となります。

 なお、次の仕訳では、わかりやすく、貸方を79,500円(受取側に支払い)と500円(金融機関に支払い)の2つに分けました。同時に支払う場合には、まとめて貸方80,000円としてもかまいません(実務では、むしろその方が一般的)。以下の仕訳も、みな同じです。

 

 買掛金を計上している場合には、買掛金を取り崩して、次のような仕訳となります。

(借)買掛金 80,000  (貸)普通預金 79,500

                普通預金   500

 買掛金を計上していない場合には、仕入を計上します。

(借)仕 入 80,000  (貸)普通預金 79,500

                普通預金   500

 

 振込手数料は、代金より差し引いているので、支払側の費用とはなりません。

 

 (支払側の処理…経費)

 支払側が、仕入代金ではなく、経費の場合も同様です。次の設例のとおりです。

 

(設例)

 請求書80,000円の〇〇費を、振込手数料500円を差し引き、79,500円普通預金より振り込んだ。振込手数料500円は、普通預金より金融機関に支払った。

 

 未払金を計上している場合には、未払金を取り崩して、次のような仕訳となります。

(借)未払金 80,000  (貸)普通預金 79,500

                普通預金     500

 未払金を計上していない場合には、費用計上します。

(借)〇〇費 80,000  (貸)普通預金 79,500

                 普通預金    500

 

 

・仕訳による説明――支払側(買い手)が振込手数料を負担する場合

 

(受取側の処理…売上代金)

 

(設例)

 得意先より売上代金80,000円が、普通預金に振り込まれた(振込手数料は差し引かれていない。)。

 

 売掛金を計上している場合には、次のような仕訳となります。

(借)普通預金  80,000  (貸)売掛金 80,000

 

 売掛金を計上していない場合には、次のとおりです。

(借)普通預金 80,000  (貸)売  上 80,000

 

 受取側は、振込手数料を負担していないので、支払手数料という費用は生じません。

 

(支払側の処理…仕入代金)

 

(設例)

 仕入先に仕入代金80,000円を、普通預金より振り込んだ。振込手数料500円は、当方負担とし、普通預金より金融機関に支払った。

 

 買掛金を計上している場合は、次のような仕訳となります。

(借)買掛金   80,000 (貸)普通預金    80,000

     支払手数料        500     普通預金    500

 

 買掛金を計上していない場合は、次のとおりです。

(借)仕  入    80,000 (貸)普通預金 80,000

     支払手数料        500     普通預金    500

 

 振込手数料は、支払側で負担したので、支払側で費用として計上されます。

 

(支払側の処理…経費)

 支払側が、仕入代金ではなく、経費の場合も同様です。次の設例のとおりです。

 

(設例)

 請求書80,000円の〇〇費を、普通預金より振り込んだ。振込手数料500円は、当方負担とし、普通預金より金融機関に支払った。

 

 未払金を計上している場合は、次のような仕訳となります。

(借)未払金    80,000  (貸)普通預金 80,000

     支払手数料     500      普通預金    500

 

 未払金を計上していない場合は、次のとおりです。

(借)〇〇費    80,000  (貸)普通預金 80,000

     支払手数料     500      普通預金    500

 

 

・振込手数料の後払い

 

 支払側が振込手数料を金融機関に支払う時期ですが、振込時ではなく、翌月など後日まとめて払う場合があります。その場合の処理を、買掛金の設例で考えてみます。

 

受取側が振込手数料を負担する場合)

 

(設例)

 仕入先に仕入代金80,000円を、振込手数料500円を差し引き、79,500円普通預金より振り込んだ。振込手数料500円は、翌月、金融機関に支払う予定である。

 

 買掛金を取り崩して支払った場合の仕訳を示してみます。

(借)買掛金 80,000 (貸)普通預金79,500

             未払金   500

 

 この場合、下記のように処理したのでは買掛金が500円残ってしまうので、上記のような処理が妥当です。もちろん、下記の処理でも、振込手数料を支払ったときに、残りの買掛金500円を取り崩すので、そのとき買掛金は0になります。しかし、それまでの間、買掛金が残ってしまうので、上記のように振込時に買掛金を0にし、振込手数料分を未払金に振り替えておく方が望ましい処理です。

(借)買掛金 79,500 (貸)普通預金 79,500

 

支払側が振込手数料を負担する場合)

 

(設例)

 仕入先に仕入代金80,000円を、普通預金より振り込んだ。振込手数料500円は、翌月、金融機関に支払う予定である。

 

(借)買掛金  80,000 (貸)普通預金    80,000

     支払手数料     500     未払金       500

 

 振込手数料を支払側が負担する場合も、振込という役務の提供は終わっているので、支払手数料の未払計上が妥当です。ただし、重要性の原則の適用により、未払金計上をしないで、翌月支払時の費用とすることも考えられます。

 

 

・支払側が過大・過小に振込手数料を差し引いた場合

 

 支払側が代金を振り込むとき、差し引く振込手数料を実際の額ではなく、それより多い一律に決めた額で統一的に差し引く場合があります。実際に必要な振込手数料の額を調べ、その額で差し引くのは件数が多いと手数がかかることがあるので、会計処理を簡単にするためです。

 

 また、実際に支払う金額で差し引くつもりでも、次のような場合に、予定した額よりも実際の振込手数料の金額が少なく済んだという場合もあります。

① 振込金額が少なかったため

② 同じ金融機関の支店間であったため

③ ATMやネットバンキングを利用したため

④ 単純に、誤ったため

 

 支払側が振込手数料を差し引く場合(すなわち、受取側が振込手数料を負担する場合)に、差し引いた金額よりも実際の振込手数料金額の方が少なかった場合、つまり過大に振込手数料を差し引いた場合の処理をみてみます。

 

(設例)

 仕入先に仕入代金80,000円を、振込手数料分500円を差し引き、79,500円普通預金より振り込んだ。ただし、実際の振込手数料は400円であり、普通預金より金融機関に支払った。

 

 買掛金の例で、仕訳を示してみます。

(借)買掛金 80,000  (貸)普通預金   79,500

               普通預金    400

               雑収入     100

 振込手数料500円を差し引いたのに、実際には400円しか必要ではなかったので、差額100円は支払側の利益となります。したがって、その差額は、雑収入に計上します。

  

 ごくまれでしょうが、差し引いた振込手数料よりも、実際の振込手数料の方が多かったというケースも考えられます。

 

(設例)

 仕入先に仕入代金80,000円を、振込手数料分500円を差し引き、79,500円普通預金より振り込んだ。ただし、実際の振込手数料は600円であり、普通預金より金融機関に支払った。

 

(借)買掛金   80,000  (貸)普通預金 79,500

     支払手数料      100        普通預金    600

 この場合には、振込手数料を差し引くのが少なすぎたわけであり、差額100円は支払側の費用となります。

 

 受取側の処理を考えてみます。

 

(設例)

 得意先より売上代金80,000円が、500円を差し引かれ、普通預金に79,500円振り込まれた。500円が振込手数料の実額かは不明である。

 

 受取側は、支払側がいくら金融機関に振込手数料を支払ったかわからない場合でも、代金から差し引かれた500円をそのまま支払手数料としているケースが多いと思われます。

(借)普通預金   79,500  (貸)売掛金 80,000

      支払手数料    500

 理論的には、実際に差し引かれた振込手数料がわからない(不明の)場合には、売上高のマイナスとする方が妥当と思われます。

(借)普通預金   79,500  (貸)売掛金 80,000

     売上値引      500

  

 

・インボイス制度と受取側(売り手)負担の振込手数料

 

 2023年(令和5年)10月からは、消費税の仕入税額控除をするためには、原則、インボイス(適格請求書等)の保存が必要となります。

 

 受取側(売り手)が振込手数料を負担した場合、すなわち、振込手数料を差し引かれて振り込まれた場合、受取側(売り手)がインボイス(明細書)を支払側(買い手)から受け取るということは、実務上、難しいと思われます。 したがって、受取側が支払手数料(通信費・雑費)や売上値引として処理しても、原則、仕入税額控除できないということになります。

 

 これについては、2つの特例措置があります。

 

① 少額(税込金額10,000円未満の値引き等)の返還インボイス交付義務の免除…適用期限のない恒久的な措置

 

 受取側が、支払手数料ではなく、売上高のマイナス(売上値引)として処理すれば、10,000円未満の対価の返還等に該当するので、インボイスなしでも仕入税額控除が認められます。

 なお、仕訳では支払手数料(通信費・雑費)としても、消費税法上は売上高のマイナスとして取扱うことも可能です。具体的には、仕訳時に消費税の設定を、課税仕入れではなく、課税売上げのマイナスとします。したがって、売上が食料品などの軽減8%でしたら、その代金の振込手数料も軽減8%のマイナスとなります。

 

② 中小企業の少額特例…6年間(2023年10月1日~2029年9月30日)の時限措置

 

 課税売上1億円以下の事業者は、10,000円未満の課税仕入れについて、インボイスがなくても、帳簿への記載のみで仕入税額控除が認められます。これに該当すれば、受取側が負担した振込手数料を、支払手数料(通信費・雑費)として仕訳しても、仕入税額控除が可能となります。

 

 いずれにしても、今後、商慣習として、振込手数料が少額になってきたこともあり、支払側(買い手)が負担するという方向に行くのではないかと思います。支払側は、金融機関からインボイス(振込手数料の計算書)を受け取ることができるので、仕入税額控除が可能です。

 

 

※本稿は、次の拙稿を、大幅に加筆修正したものです。

寺田誠一稿『経理の疑問点スッキリ解明 第1回 振込手数料』月刊スタッフアドバイザー 2009年(平成21年)4月号

 

 

※消費税の実務的な入力方法については、「税込経理方式・税抜経理方式と消費税内税入力・決算整理」参照 

※複合仕訳から単一仕訳へ分解する3つの方法については、「複合仕訳の単一仕訳への分解」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。