「減価償却の計算方法」
2020年(令和2年)9月5日(最終更新2022年3月21日)
寺田 誠一(公認会計士・税理士)
・各種の計算方法
減価償却の代表的な計算方法には、耐用年数を配分基準にするものに、定額法・定率法・級数法があります。また、利用度を配分基準にするものに、生産高比例法があります。
・定額法
定額法は、固定資産の耐用期間中、毎期均等額の減価償却費を計上する方法です。毎期の減価償却費が同額になる点に特徴があります。
定額法の毎期の減価償却費は、次の算式により求められます。
減価償却費=(取得原価-残存価額)÷耐用年数
または
減価償却費=(取得原価-残存価額)×償却率※
※:償却率=1÷耐用年数
税務上は、この償却率を用いて計算します。
・定率法
定率法は、固定資産の耐用期間中、毎期の期首末償却残高に一定率を乗じた減価償却費を計上する方法です。固定資産の耐用期間の初期に多額の償却費が計上されるので(つまり費用化のスピードが速いので)、定額法よりも保守主義的な方法です。
また、能率が落ち修繕維持費が多くかかるようになる後の期には減価償却費が少なく計上されるので、その固定資産に関する費用全体として毎期平準化されるという説明もされます。
定率法の毎期の減価償却費は、次の算式により求められます。
減価償却費=期首帳簿価額(※1)×償却率(※2)
※1:帳簿価額(簿価)=取得原価-減価償却累計額
現在の税務上の定率法は、次の算式です。
減価償却費=期首帳簿価額×償却率(※3)
※3:償却率=1÷耐用年数×2.0
・コラム「定額法と定率法が適用できない場合」
定額法は、取得原価が基礎になりますので、取得原価が不明の場合には適用できません。定率法は、取得原価が不明でも、期首の帳簿価額(未償却残高)が明らかならば、適用できます。
一方、定率法は、償却率を求める式のルートの中の分子に残存価額があることから、残存価額がゼロの場合には、適用できません。定額法は、残存価額がゼロであっても、適用できます。
・級数法
級数法は、固定資産の耐用期間中、毎期、算術級数的に逓減した減価償却費を計上する方法です。級数法は、定率法ほど逓減率が急激ではありません。ただし、税務上、原則として認められていない方法なので、実務上はほとんど用いられていません(税務上、届け出をすれば採用可能。)。
級数法の初年度の算式は、次のとおりです。翌期以降は、分子の耐用年数を1年ずつ減らして計算します。
減価償却費=(取得原価-残存価額)×耐用年数/総項数※
※:総項数=1+2+3+・・・+n(nは耐用年数)
たとえば、耐用年数が5年の場合には、総項数は1+2+3+4+5=15となるので、1年目は5/15、2年目は4/15、3年目は3/15、4年目は2/15、5年目は1/15という償却率になります。
・生産高比例法
生産高比例法は、固定資産の耐用期間中、毎期、その資産による生産または役務(用役)の提供の度合に比例した減価償却費を計上する方法です。
減価償却費=(取得原価-残存価額)×当期利用量/見積総利用量
生産高比例法は、次の2つの条件をともに満たすものに限って、適用することができます。
①その固定資産の総利用可能量が物理的に確定できること。
②減価が主として固定資産の利用度に比例して発生すること。
生産高比例法の適用される固定資産としては、鉱業用設備(鉱山で使用される機械装置など)、航空機、自動車などが考えられます。しかし、税務上、生産高比例法が認められているのは、原則として、有形固定資産では鉱業用設備、無形固定資産では鉱業権だけです。
・コラム「減耗償却」
計算手続的には生産高比例法と同じですが、減価償却とは異なる費用配分方法に、減耗償却があります。減耗償却は、減耗性資産に対して適用される方法です。
減耗性資産とは、鉱山業における埋蔵資源・石油業における油田・林業における山林のように、採取されるにつれてしだいに減耗し涸渇する天然資源を表す資産です。減価償却資産のようにその全体としての役務(用役)をもって生産に役立つものではなく、採取されるに応じてその実体が部分的に製品化されていくものです。
減耗償却費=(取得原価-残存価額)×当期採取量/見積総資源量
・コラム「取替法」
取替法とは、取得以後は資産の減価を無視して減価償却を行わず、取得原価をそのまま据えおき、実際に破損等の理由で取替を行ったときに、新資産を取得するために支出した額を費用として処理する方法です。すなわち、資産の部分的取替に要した支出を、費用として処理する方法です。
取替法は、取替資産に限って適用が認められています。取替資産とは、同種の物品が多数集まって一つの全体を構成し、老朽品の部分的取替えを繰り返すことにより全体が維持されるような固定資産をいいます。たとえば、鉄道会社のレール・枕木・信号機、電力会社の電柱・送電線などです。
取替法は、減価償却に代わる簡便法です。取替資産を連続的に多数取得した場合には、一定期間経過後においてその取替えが毎期平均的に生ずると考えられます。したがって、毎期の取替費を費用として計上すれば、減価償却による費用化と同様の効果が期待できるという考え方によるものです。
取替法の長所は、次の点です。取替法は、価格上昇時には現在の価格水準の取替費が費用として計上されるので、インフレによる名目的な利益を当期純利益から排除することができます。減価償却は、価格上昇時においては、収益に対応する費用(減価償却費)が過去の低い価格水準で計上されるので、インフレによる名目的な利益が当期純利益の内に含まれてしまいます。
一方、取替法の短所は次の点です。取替法は、資産の一部を取り替えるまで当初の取得原価をすえおくため、費用化が遅れ資産を過大評価するという結果になります。
・コラム「税務上の取替法」
取替法は、税務上も認められています。ただし、税務上の取替法は、会計上の取替法と異なり、半額法・50%法といわれる方法です。すなわち、取替資産を取得してからその取得原価の半額に達するまでは、定額法・定率法など通常の減価償却を行い、それ以後取替法を採用するものです。
これは、取替資産は、一定の年数を経過して正常の取り替えを行う時期に達した後は、その資産全体としてみると、すぐにも取り替えを要する0%の価値しかないものから、取り替えた直後の100%の価値のあるものまで混在しています。したがって、資産の総額は、取得原価の50%程度であるという考え方に基づいています。
・コラム「廃棄法」
廃棄法は、取得してから取り替えるまで取得原価をすえ置く点は、取替法と同じです。ただし、取り替えにあたり、旧資産の簿価を費用として計上し、新資産の取得に要した額を新しい簿価とする点で、取替法と逆です。取替法は後入先出的なのに対して、廃棄法は先入先出的です。
廃棄法は、減価償却の原始的な形態です。廃棄法を発展させて、取り替え以前に費用化するようにしたのが、減価償却です。
なお、廃棄法は、現在の制度会計上は認められていません。つまり、会計上も税務上も認められていない方法です。
※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。
寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第9章 固定資産と減価償却 3 減価償却の計算方法」
※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。