「決算書の作成方法の設例」
2020年(令和2年)5月2日(最終更新2024年8月25日)
寺田 誠一(公認会計士・税理士)
1 第1期の設例
・第1期の取引
ここでは、仕訳を行ってから決算書ができるまでを、設例で示してみます。
設立第1年目の取引が次のとおりであったとします。この設例では、取引はこれのみであると仮定します。また、簡略化のため、「現金預金」と「諸経費」という勘定科目を用いることにします。金額の単位も省略します。
(設例)
(1)株主が資本金10,000を現金預金で払い込み。
(2)金融機関より4,000現金預金を短期的に借入れ。
(3)掛売上65,000。
(4)掛仕入50,000。
(5)諸経費12,000を現金預金で支払い。
・第1期の仕訳
第1期の設例の仕訳を考えてみると、次のようになります。
(1)(借)現金預金 10,000 (貸)資 本 金 10,000
(2)(借)現金預金 4,000 (貸)短期借入金 4,000
(3)(借)売 掛 金 65,000 (貸)売 上 65,000
(4)(借)仕 入 50,000 (貸)買 掛 金 50,000
(5)(借)諸 経 費 12,000 (貸)現金預金 12,000
現金預金と売掛金は、資産なので、本来の場所は借方であり、増加したときは借方、減少したときは貸方となります。資本金は資本であり、また、短期借入金・買掛金は、負債なので、いずれも本来の場所は貸方であり、増加したときは貸方、減少したときは借方となります。
売上は、収益なので、本来の場所は貸方であり、増加したときは貸方、減少したときは借方となります。仕入と諸経費は、費用なので、本来の場所は借方であり、増加したときは借方、減少したときは貸方となります。
・第1期の総勘定元帳
手書きの場合、仕訳を行った後は、総勘定元帳に転記します。パソコン会計では、仕訳後、クリックすれば、総勘定元帳を簡単に表示・印刷することができます。総勘定元帳は、監査や税務調査のとき、中心となる重要な帳簿です。
さて、総勘定元帳とは、勘定科目ごとの増減を記録した帳簿です。総勘定元帳は、各勘定科目ごとに、取引の発生順に、借方・貸方に記入して残高を計算したものです。記入のルールは、仕訳の借方に記入されたものは総勘定元帳でも借方に、仕訳の貸方に記入されたものは総勘定元帳でも貸方にということです。
学習や試験では、総勘定元帳をよくT字型の略式で示します。たとえば、上記の第1期の現金預金の総勘定元帳の例を示すと、次のとおりです。
・第1期の残高試算表
手書きの場合、総勘定元帳の残高を集めて、残高試算表を作成します。パソコン会計では、仕訳後、クリックすれば、残高試算表も簡単に表示・印刷することができます。
資産と費用は、本来の場所が借方ですから、総勘定元帳の残高も借方残高となっています。設例でいえば、現金預金・売掛金・仕入・諸経費です。
負債・資本・収益は、本来の場所が貸方ですから、総勘定元帳の残高も貸方残高となっています。設例でいえば、買掛金・短期借入金・資本金・売上です。
総勘定元帳の残高が借方にある勘定科目、すなわち資産・費用の勘定科目は、残高試算表においては借方に記入します。総勘定元帳の残高が貸方にある勘定科目、すなわち負債・資本・収益の勘定科目は、残高試算表においては貸方に記入します。
第1期設例の残高試算表を示すと、次のとおりです。
なお、残高試算表の借方残高と貸方残高は一致します。貸借が一致している仕訳を分解して集計したものが残高試算表なので、一致するのは当然です。したがって、次の式が成り立ちます。
借方残高(資産残高+費用残高)=貸方残高(負債残高+資本残高+収益残高)
設例の数値で確かめると、次のとおりです。
借方:現金預金残高2,000+売掛金残高65,000+仕入残高50,000+諸経費残高12,000=129,000
貸方:買掛金残高50,000+短期借入金残高4,000+資本金残高10,000+売上残高65,000=129,000
・第1期の貸借対照表と損益計算書
残高試算表を上下に切り離すと、貸借対照表と損益計算書ができあがります。残高試算表の借方は、上部に資産の勘定科目が、下部に費用の勘定科目が集まっていますが、資産と費用の間で上下に切り離します。
一方、残高試算表の貸方は、上部に負債・資本の勘定科目が、下部に収益の勘定科目が集まっていますが、負債・資本と収益の間で上下に切り離します。
前述の残高試算表でいえば、太線で示したところで分離するということです。すると、次の図のようになり、切り離した余白部分に「利益」を記入すれば、上部に貸借対照表が、下部に損益計算書が、それぞれできあがります。
第1期の利益(正式には、当期純利益)は、次の計算により、3,000となります。
売上65,000-仕入50,000-諸経費12,000=3,000
2 第2期の設例
・第2期の仕訳
第2期の仕訳が、次のとおりであったとします。
(7) (借)売 掛 金 70,000 (貸)売 上 70,000
(8) (借)現金預金 63,000 (貸)売 掛 金 63,000
(9) (借)仕 入 43,000 (貸)買 掛 金 43,000
(10) (借)買 掛 金 39,000 (貸)現金預金 39,000
(11) (借)短期借入金 4,000 (貸)現金預金 4,000
(12) (借)諸 経 費 19,000 (貸)現金預金 19,000
・第2期の総勘定元帳
第2期の総勘定元帳のうち、現金預金と買掛金を示してみると、次のとおりです。
・第2期の残高試算表・貸借対照表・損益計算書
第2期の残高試算表ですが、第1期から繰り越されてくるのは、現金預金・売掛金・買掛金などの貸借対照表の勘定科目(資産・負債・資本)です。損益計算書は会計期間ごとに区切るので、第2期の売上・仕入などの損益計算書の勘定科目は、また0からスタートします。
手書きでは、残高試算表の期末残高を上下に分離すると、貸借対照表と損益計算書が作成できます。
第2期の利益(正式には、当期純利益)は、次の計算により、8,000となります。
売上70,000-仕入43,000-諸経費19,000=8,000
*実際の貸借対照表においては、利益は繰越利益剰余金の内に含めて表示されます。
3 第2期のキャッシュフロ-計算書
・直接法によるキャッシュフロ-計算書
キャッシュフロ-計算書においては、キャッシュとは「現金及び現金同等物」と定義されます。ここでは、「現金及び現金同等物」を現金預金とイコ-ルと仮定して話を進めます。
さて、キャッシュフロ-計算書の作り方には、直接法と間接法とがあります。直接法とは、仕訳から現金預金の動きを抜き出して、キャッシュフロ-計算書を作る方法です。この第2期の設例は単純ですので、総勘定元帳の現金預金の内容がそのままキャッシュフロ-計算書となります。
・間接法によるキャッシュフロ-計算書
間接法は、期首と期末の貸借対照表を比較して作成する方法です。間接法では、貸借対照表の各勘定科目の期末残高が期首残高と比べて、増加しているかそれとも減少しているかにより、キャッシュ(現金預金)の増加または減少ととらえます。この原理を、本稿では、「キャッシュの増減原理」と呼びます(内容については、次のコラムを参照。)。
この設例では、当期純利益は資本の増加なのでキャッシュの増加、売掛金の増加は資産の増加なのでキャッシュの減少、買掛金の増加は負債の増加なのでキャッシュの増加、短期借入金の減少は負債の減少なのでキャッシュの減少となります。
間接法は、当期純利益からスタ-トします。キャッシュフロ-計算書は、当期のキャッシュの動きを示すので、前期以前の利益の加わった繰越利益剰余金から始まるのではありません。
・コラム「キャッシュの増減原理」
キャッシュの増減原理は、貸借対照表等式から、求められます。
まず、貸借対照表等式を示してみます。
資産=負債+資本
資産を「現金預金」と「現金預金以外の資産」とに分けます。
現金預金+現金預金以外の資産=負債+資本
「現金預金以外の資産」を右辺に移項して、左辺を「現金預金」だけにします。
現金預金=-現金預金以外の資産+負債+資本
この式は残高についての式ですが、この関係は増減額についても成り立ちます。
現金預金の増減=-現金預金以外の資産の増減+負債・資本の増減
この式から、「現金預金以外の資産」とキャッシュ(現金預金)との関係、「負債・資本」とキャッシュ(現金預金)との関係は、それぞれ、次のように表されます。「キャッシュの増減原理」とは、この関係をいいます。
(ア)現金預金以外の資産の増加→キャッシュ(現金預金)の減少
(イ)現金預金以外の資産の減少→キャッシュ(現金預金)の増加
(ウ)負債・資本の増加→キャッシュ(現金預金)の増加
(エ)負債・資本の減少→キャッシュ(現金預金)の減少
「キャッシュの増加」とは、期末残高と期首残高とを比べて、期末残高の方が期首残高よりも大きいことをいいます。「キャッシュの減少」とは、期末残高と期首残高とを比べて、期末残高の方が期首残高よりも小さいことをいいます。
さて、1つの例として、「売掛金の増加」が「キャッシュの減少」になることの説明をしてみます。
売掛金増加の仕訳は、次のとおりです。
(借)売 掛 金 ××× (貸)売 上 ×××
これを、次のように分解してみると、現金預金を支払って売掛金という資産を取得したと考えることができます。
(借)現金預金 ××× (貸)売 上 ×××
(借)売 掛 金 ××× (貸)現金預金 ×××
したがって、売掛金の増加は、キャッシュの減少と考えることができます。
もう1つ、「買掛金の増加」が「キャッシュの増加」になることの説明をしてみます。
買掛金増加の仕訳は、次のとおりです。
(借)仕 入 ××× (貸)買 掛 金 ×××
これを、次のように分解してみると、買掛金という負債が増加するとともに、現金預金が増加することがわかります。
(借)仕 入 ××× (貸)現金預金 ×××
(借)現金預金 ××× (貸)買 掛 金 ×××
したがって、買掛金の増加は、キャッシュの増加と考えることができます。
・コラム「直接法と間接法」
この設例では、直接法の方が間接法よりも簡単に思えたかも知れません。それは、この設例がとても単純な事例だからです。直接法は、現金預金に関する取引を主要な取引ごとに集計します。集計には、パソコンを利用することが必要だと考えられます。勘定科目を、集計が可能であるように体系化し、コ-ド番号を付けなければなりません。このように、直接法を採ると、勘定科目の体系が複雑になります。
間接法の長所としては、次の2点が挙げられます。
① 当期と前期の貸借対照表を比較して作るので、手数がかからない。
② 「当期純利益」と「キャッシュの増減」の差異の原因がわかる。
※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。
寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第2章 決算書の作成方法」
※利益は、借方(左側)の項目なのか、貸方(右側)の項目なのかについては、「簿記の手続き…利益は左?右?」参照。
※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。