「2とおりの決算書」

 

2020年(令和2年)5月2日(最終更新2021年7月13日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・会社法上の決算書

 

 決算書の開示制度としては、会社法によるものと金融商品取引法によるものの2つがあります。また、会社法や金融商品取引法などの法令による規制のもとに行われる会計を、制度会計といいます。

 会社法上の決算書の表示につて規定しているのが、会社計算規則です。一方、金融商品取引法上の決算書について規定しているのが、財務諸表等規則と連結財務諸表等規則です。

 会社法上の決算書は、計算書類と呼ばれます。具体的には、①貸借対照表、②損益計算書、③株主資本等変動計算書、④注記表です。会社法上の決算書は、すべての会社が、株主のために作成しなければなりません。

 

・金融商品取引法上の決算書

 

 金融商品取引法上の決算書を、財務諸表といいます。具体的には、①貸借対照表、②損益計算書、③株主資本等変動計算書、④キャッシュフロー計算書、⑤附属明細表です。

 これらの財務諸表は、上場企業などが、有価証券報告書に掲載するために作成するものです。つまり、上場などをしている大企業だけが作成するものです。また、公認会計士または監査法人による監査報告が必要です。

 有価証券報告書は、インターネットで閲覧することができます(会社法上の計算書類と異なり、株主に自動的に送られて来るものではありません。)。

 

 金融商品取引法上の貸借対照表と損益計算書は、会社法上のものに比べると、はるかに表示が詳細です。そして、連結財務諸表が中心となっています。

 株主資本等変動計算書の表示は、金融商品取引法上と会社法上とで、同じです。また、キャッシュフロー計算書は、金融商品取引法上のものであり、会社法上は作成が義務付けられていません。

 

・コラム「決算書」

 

 決算書という言葉は通称です。したがって、会社法上の計算書類や金融商品取引法上の財務諸表以外に、次のような、さまざまな意味で用いられます(貸借対照表と損益計算書が中心であるということはいえます。)。

① 貸借対照表+損益計算書

② 貸借対照表+損益計算書+株主資本等変動計算書

③ 貸借対照表+損益計算書+株主資本等変動計算書+税務申告書

 また、「財務諸表」という言葉も、必ずしも金融商品取引法上の意味ではなく、通称としての決算書と同じ意味で用いることもあります。

 

・ コラム「2とおりの決算書における用語の違い」

 

 旧商法(2005年(平成17年)以前)と会計とでは、次表のように、用語が異なっていました。会社法(2005年)と会社計算規則(2006年)の制定により、会計に合わせる形で両者の用語が統一されたのは、とても歓迎すべきことでした。

 

 

   旧商法

   会 計

貸借対照表の用語①

投資等

投資その他の資産

貸借対照表の用語②

株式等評価差額金

その他有価証券評価差額金

損益計算書の用語

税引前当期利益

当期利益

税引前当期純利益

当期純利益

 

 

 

 ※本稿は、次の拙著を加筆修正したものです。

寺田誠一著 『ファーストステップ会計学 第2版』東洋経済新報社2006年 「第3章 決算書の表示 1 2とおりの決算書」

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。