「社会保険の内容と会計処理(仕訳)

 

2020年(令和2年)6月20日(最終更新2021年7月11日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・社会保険と労働保険の概要

 

 まず、用語の説明から始めます。社会保険(広義)には、社会保険(狭義)と労働保険が含まれます。社会保険(狭義)は、健康保険と厚生年金保険とに、労働保険は労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険(過去の名称は、失業保険)とに、それぞれ分かれます。

 

社会保険(広義)

① 社会保険(狭義)

    ①-1 健康保険

    ①-2 厚生年金保険

② 労働保険

    ②-1 労災保険

    ②-2 雇用保険

 

 健康保険とは、業務外の病気やけがなどに備えるための保険です。たとえば、病院の窓口での支払が治療費の3割で済むのは、7割が健康保険から病院に支払われるからです。厚生年金保険とは、老後の年金などに備えるための保険です。労災保険とは、業務上・通勤途中における病気やけがなどに備えるための保険です。雇用保険とは、失業期間中の生活費に備えるための保険です。

 

 給料や賞与の税額表で「社会保険料控除後の金額」という用語がありますが、その社会保険料は広義の意味です。また、求人広告などで社会保険完備とあるのも、通常、広義の意味です。

 広義の社会保険料には、労災保険を除き、会社負担分と個人負担分とがあります。労災保険料は、すべて会社負担です。

 

 

 

会社負担分

個人負担分

健康保険

  〇

  〇

厚生年金

  〇

  〇

労災保険

  〇

  ×

雇用保険

  〇

  〇

 


  会社負担とは、会社の経費になるということです(個人事業の場合には、個人事業主の経費)。仕訳の勘定科目としては、通常、「法定福利費」を用います。個人負担とは、給料より天引きすることであり、勘定科目としては、通常、負債である「預り金」を用います。預り金を分けて「社会保険預り金」「労働保険預り金」とする場合や、預り金に補助コードを付ける場合もあります。

 

 通勤手当(通勤定期代)は、所得税と社会保険(広義)における取扱いが違います。所得税では、通勤手当は、旅費交通費とされ、よほど多額でない限り課税されません。つまり、給与扱いされないということです。それに対して、社会保険では、保険料の算定の対象になります。つまり、給与扱いされます。

 

・社会保険(狭義)の適用

 

 狭義の社会保険、すなわち健康保険と厚生年金保険の申告と納付の手続は一緒に取り扱われるので、まとめて説明します(以下の説明は、年金事務所管轄の政府管掌のものを前提にし、「健保・厚年」と略します。)。

 法人(会社)は、健保・厚年は強制適用です。法人でない個人事業は、従業員が常時5人以上の製造・販売・運送など16業種が強制適用です。

 健保・厚年には、役員も加入します。健保・厚年には、パ-トも、原則として、一般社員のおおむね3/4以上の日数・時間働いている人は加入します。

 大きな特徴点として、健保・厚年では、給料のことを「報酬」といいます。

 

・ 保険料の算出

 

 健保・厚年の保険料の納期限は翌月末です。したがって、個人負担分を給料から天引きする場合、翌月支払いの給料から差し引くことになっています(会社が個人負担分を預かっている期間を長くしないため)。

 たとえば、4月分の健保・厚年の保険料個人負担分は、5月支払いの給料から控除します(したがって、4月入社の新入社員は、4月支払いの給料からは控除されません。)。そして、会社負担分を合わせた4月分の総額が、5月末に年金事務所に支払われます(通常、預金からの自動引き落としにより納付)。つまり、1ヶ月、後払いということになります。

 

 健保・厚年の保険料は、毎月の実際の給料に基づくのではありません。手数を省くため、「標準報酬月額」というものを定め、東京都では、健康保険料はその9.90%、厚生年金保険料はその18.30%で計算します。実際には、この率は各都道府県単位であり、都道府県によって微妙に異なります。そして、それらを、会社負担分と個人負担分とに1/2ずつ折半します(会社は円未満切り上げ、個人は円未満切り捨て)。

 

 なお、40歳以上65歳未満の人の介護保険料は、健康保険料と一緒に徴収されます。したがって、これらの年齢の人は、たとえば東京都では、健康保険料率9.90%に介護保険料率1.57%を加えて、11.47%となります。介護保険料率は、都道府県で異なることはなく、全国で同じです。介護保険料も、会社負担分と個人負担分とで1/2ずつ折半します。

 

 さて、標準報酬月額は、健保は50等級の1,390,000円が、厚年は31等級の620,000円が、それぞれ上限となります。健保・厚年の計算にあたっては、それ以上の給料の方でも、その上限の標準報酬月額を用います。

 健保・厚年の支払時には、子ども・子育て拠出金も一緒に支払います。金額は、厚年の標準報酬月額の0.23%です。子ども・子育て拠出金は、全額が会社負担であり、個人負担分はありません。

 

・定時決定

 

 標準報酬月額は、原則として、年1回、7月に決まります。これを、「定時決定」といいます。毎年、7月1日~10日までに、年金事務所へ「算定基礎届」を提出します。それに基づいて、年金事務所から算定基礎届の複写である標準報酬決定通知書が、会社に送られてきます。それにより、個人別の標準報酬が決まります。

 

 算定基礎届は、7月1日現在の在職者全員について記入します。そして、4月・5月・6月の給料(通勤手当を含む。)を平均して標準報酬を求め、健保・厚年それぞれの標準報酬を決めます。なお、支払基礎日数が20日未満の月は除外して、平均を計算します。

 4月・5月・6月の給料というのは、それらの月に支払った給料という意味です(支払ベ-スで見ます。)。また、通勤手当(通勤定期代)を数ヶ月分まとめて支給している場合には、1ヶ月当たりの金額を計算してそれぞれの月に加えます。

 7月の定時決定により決められた標準報酬月額は、9月支払給料~  翌年8月支払給料(翌月の給料から控除するので、控除ベ-スでいえば、10月支払給料~翌年9月支払給料)で使用します。

 

 なお、新入社員などは、見積りで標準報酬月額を定め、「資格取得届」を年金事務所に提出します。これを、「取得時決定」といいます。

 

・ 随時改定

 

 昇給などで実際の給料と標準報酬月額とに大きな差が生じた場合には、標準報酬月額を改定することになります。これを、「随時改定」といいます。

 3ヶ月間の給料の平均が現在の標準報酬月額と2等級以上の差がある場合に、随時改定を行います。そして、算定基礎届とほとんど同じ様式の「月額変更届」を、年金事務所に提出します。

 随時改定による新保険料は、昇給月から数えて4ヶ月目から適用になります。たとえば、10月から昇給し10月・11月・12月支払の3ヶ月分を平均した場合には、1月支払給料(翌月の給料から控除するので、控除ベ-スでいえば2月支払給料)から改定されます。

 

 健保は50等級、厚年は31等級が上限です。ですから、それぞれ49等級と30等級の方が昇給した場合には、1等級の差しかありません。そのような場合にも、随時改定が必要で、月額変更届を提出することになっています。上限だけでなく、下限の方の給料が減った場合も同じです。

 

・賞与の保険料率

 

 2003年(平成15年)4月以降は、賞与からも給料と同じ保険料率で健保(介護保険)・厚年の保険料を支払う総報酬制が導入されました。従前は賞与の保険料は低かったのですが、給料で支払うか賞与で支払うかにより不公平が生ずるということで、改正されました。

 

  賞与の計算方法は、「標準賞与額」をもとに計算します。標準賞与額とは、毎回の賞与の1,000円未満を切り捨てた額です。

賞与を支給したときは、「賞与支払届」により、個人別の賞与の金額を年金事務所に届け出ます。そして、年金事務所への納付は、賞与の分だけを別にするのではなく、毎月の給料に対する分と一緒に行います。

 

・社会保険の会計処理(仕訳)

 

(設例)

健保・厚年の保険料

会社負担分300,000円、個人負担分300,000円

子ども・子育て拠出金 3,000円

 このとき、次の仕訳はどうなりますか(支払いは普通預金からとする。)。

① 給料よりの天引時

② 年金事務所への支払時

③ 決算時

 

(第1法・・・原則法その1)

 

① 天引時

(借)給   与 300,000  (貸)預 り 金 300,000

 

② 支払時

(借)預 り 金   300,000  (貸)普通預金  603,000

  法定福利費   303,000

 

③ 決算時

(借)法定福利費  303,000  (貸)未 払 金 303,000

  決算においては、健保・厚年の保険料は翌月払いなので、会社負担1ヶ月分を未払金に計上します(重要性の原則を適用して、未払計上しないことも可。)。

 

(第2法・・・原則法その2)

 

 第1法は、決算では発生ベースになりますが、期中は支払いベースであり、法定福利費という費用の計上が1ヶ月遅れます。したがって、期中も発生ベースにするため、法定福利費の未払いを毎月計上する方法も考えられます。その方が、月次の損益を正しく捉えられます。これが、第2法です。大企業で、多く採用されています。

 

① 天引時

(借)給   与 300,000  (貸)預 り 金 300,000

(借)法定福利費 303,000  (貸)未 払 金 303,000

 法定福利費の未払計上は、給与支払時または月末に行います。

 

② 支払時

(借)預 り 金   300,000  (貸)普通預金  603,000

  未 払 金 303,000

 

③ 決算時

仕訳なし

 

(第3法・・・簡便法)

 

① 天引時

(借)給   与 300,000  (貸)法定福利費 300,000

 

② 支払時

(借)法定福利費  603,000  (貸)普通預金  603,000

 

③ 決算時

仕訳なし

 

 この第3法は、預り金を使わずにすべて法定福利費で処理する方法です。結果的に、法定福利費の月次の残高は、借方603,000円から貸方300,000円を差し引いた会社負担分303,000円となり、第1法・第2法と一致します。第3法は、中小企業で多く採用されている方法です。

 決算時は、第1法と同じように、会社負担分303,000円を未払計上するのが理論的です。ただし、処理を簡便にするために行っているので、実際には、未払計上しない方が多いと思われます。

 

 

 ※本稿は、次の拙著をもとに、大幅に加筆修正したものです。

寺田誠一著 『新人経理マン・経理ウーマンのための初級経理レッスン』税務研究会出版局1999年 「レッスン2-13 社会保険、レッスン2-14 社会保険Part2」

 

 

 

※労働保険の会計処理(仕訳)の各種方法については、「労働保険の税務と会計処理(仕訳)」参照。

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。