「給与からの控除(天引き)項目」

 

2020年(令和2年)7月13日(最終更新2021年9月21日)

寺田 誠一(公認会計士・税理士)

 

 

・毎月の給料

 

 毎月の給料計算について説明していきますが、現在、ほとんどの企業がパソコンの給与計算ソフトを使用していると思われます。給与計算ソフトを使えば、手取額まで計算し、本人に渡す給料明細まで作成することができます。したがって、給与計算ソフトを使用という前提で、話を進めていきます。

 

 毎月の給料については、給料総額と各種の控除額があります。

 給料総額には、①給料と②通勤手当(通勤定期代)があります。

① 給料

 基本給・役付手当・家族手当・住宅手当・時間外手当(残業代)など、企業から支給される月給の合計です。給与・給料・賃金・報酬など名称の違いにかかわらず、月給は同じ扱いです。

② 通勤手当(通勤定期代)

 通勤手当(通勤定期代)は、通常、所得税の課税対象とはなりません。ですから、仕訳のときの勘定科目は、「旅費交通費」がよいでしょう。

 詳しくいうと、1か月当たりの「合理的な運賃等の額」が150,000円以下の場合には、所得税は課税されません。ただし、それを超えると超過額は給与扱いとなり所得税の課税対象となります。

「合理的な運賃等の額」とは、もっとも経済的かつ合理的と認められる通勤経路・方法による運賃・料金の実費をいいます。「合理的な運賃等の額」には、新幹線の料金は含まれますが、グリ-ン車料金は含まれないので課税対象となります。

 

 なお、限度額以内の通勤手当(通勤定期代)は旅費交通費であり非課税ですが、それは所得税が非課税ということであり、消費税は課税されます。

 

 各種の控除(差引)額には、次の5種類があります。これらの控除額を差し引いた額が「手取り」ということになります。

 

③ 源泉所得税

 給料の所得税は、給料から天引きされるので、源泉所得税・源泉税・源泉徴収税などとも呼ばれます。配偶者・扶養親族の数と給料の金額によって、源泉所得税の金額は決まります。給与計算ソフトでは、配偶者や扶養親族の名前を入力します。そして、それらの数と社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険の個人負担分)控除後の給料の金額により、給与計算ソフトが、源泉所得税を自動計算してくれます。

 

 なお、毎月の源泉所得税はあくまで仮の概算額であり、改めて12月に賞与も含めた1~12月の年間確定額を計算し直します。そして、その差額を、企業と役員従業員との間で、還付または徴収します。これを「年末調整」といいます。

 それに対して、住民税・社会保険・労働保険は控除した額が確定額であり、源泉所得税のように、計算し直すということはありません。

 

④ 住民税(地方税、市町村民税)

 役員従業員の住所地の市町村より、毎年5月に、6月から翌年5月の毎月天引きすべき額の通知が来ます。その額を毎月、給料より差し引きます。なお、6月分は端数が計上されますが、7月~5月の11か月間は同じ額です。

 

⑤ 社会保険

 社会保険には、健康保険と厚生年金がありますが、その2つの保険料のうちの個人負担分です(他に、企業負担分があります。)。給料から差し引く社会保険料の額は、毎月の実際の給料に基づくのではなく、「標準報酬月額」に基づき、給与計算ソフトが自動計算してくれます。

 例外として、賞与は、実際の支払金額に基づきます。実際の金額を入力すれば、給与計算ソフトが自動計算してくれます。賞与の金額は、そのつど年金事務所への届け出が必要です。

 

⑥ 労働保険(雇用保険)

 労働保険には、労災保険と雇用保険がありますが、そのうち雇用保険の個人負担分です(労災保険はすべて企業負担なので、個人負担はありません。)。給料と通勤手当の合計額の一定割合ですが、給与計算ソフトが自動計算してくれます。

 

⑦ その他

 その企業が独自に差し引いているものです。財形貯蓄・組合費・社員旅行積立などが考えられます。

 

 簿記では、給料の仕訳は次のようになります。給与計算ソフトでその月の役員従業員全員の合計を算出して(あるいは連動させて)、その額で会計ソフトに仕訳を入力します

 (借)給   料 ×××   (貸) 現金預金    ×××

  旅費交通費  ×××      源泉税預り金  ×××

                  住民税預り金  ×××

                社会保険預り金 ×××

                労働保険預り金 ×××

                その他預り金  ×××

 上記の仕訳で、預り金は、内容によってそれぞれ勘定科目を分けてみました。なお、社会保険と労働保険は、預り金を使わないで、法定福利費を使う簡便的な方法もあります。

 

 

・入力と自動計算

 

 給与計算に必要な役員従業員の各人のデータは、パソコンに入力が必要なものと、給与計算ソフトが自動的に計算してくれるものとがあります。

 毎月の給料の場合、入力が必要なものは、①給料、②通勤手当、④住民税、⑦その他です。④住民税は、市区町村よりの通知額をそのまま入力します。自動的に計算してくれるものは、③源泉所得税、⑤社会保険、⑥労働保険です。

毎月の給料で、給与計算ソフトに入力が必要なものと、給与計算ソフトが自動的に計算してくれるものをまとめると、次のとおりです。

 

 

入 力 

自動計算

①給料

 

②通勤手当

 

③源泉所得税

 

④住民税

 

⑤社会保険

 

⑥労働保険(雇用保険)

 

⑦その他(企業独自)

 

 

 

*⑤社会保険は、毎月の給料そのものではなく、「標準報酬月額」を入力する必要があります。「標準報酬月額」に基づいて、給与計算ソフトが自動計算してくれます。

*⑥労働保険(雇用保険)は、①給料と②通勤手当に基づき、給与計算ソフトが自動計算してくれます。

*③源泉所得税は、①給料から⑤社会保険と⑥労働保険(雇用保険)を差し引いて、給与計算ソフトが自動計算してくれます。

 

 賞与の場合、入力が必要なものは、①賞与、⑦その他です。賞与からは、④住民税は控除されません。②通勤手当も通常ないでしょう。自動的に計算してくれるものは、③源泉所得税、⑤社会保険、⑥労働保険です。

 賞与で、給与計算ソフトに入力が必要なものと、給与計算ソフトが自動的に計算してくれるものをまとめると、次のとおりです。

 

 

 

入 力 

自動計算

①賞与

 

③源泉所得税

 

⑤社会保険

 

⑥労働保険(雇用保険)

 

⑦その他(企業独自)

 

 

 

*⑤社会保険は、賞与に基づいて、給与計算ソフトが自動計算してくれます。

*⑥労働保険(雇用保険)は、①賞与に基づき、給与計算ソフトが自動計算してくれます。

*③源泉所得税は、①賞与から⑤社会保険と⑥労働保険(雇用保険)を差し引いて、給与計算ソフトが自動計算してくれます。

 

・扶養控除等申告書

 

 毎月の給料の源泉所得税を給与計算ソフトに計算させる場合、役員従業員ごとに、甲欄か乙欄かを入力する必要があります。それにより、給与計算ソフトは、甲欄または乙欄の計算をしてくれます。

 

 通常は甲欄になります。ただし、そのためには、条件があります。「扶養控除等申告書」という用紙にそれぞれの役員従業員が記入し、企業に提出することです。企業はそれを保管しておく必要があります(税務署などに提出する必要はありません。)。

 扶養控除等申告書は、1つの勤務先に対してしか、提出することができません。たとえば、ある企業の取締役が他の企業の取締役にもなっていて、複数の企業から給料が支払われている場合などです。このような場合には、一番メインの企業に提出し、他の企業には提出しません。

 

 扶養控除等申告書の提出があった企業は、源泉所得税を甲欄で計算しますが、提出がなかった企業は乙欄で計算します。乙欄は、甲欄よりも税額が高くなっています。なお、複数からの給料・賞与がある方は、それらを1~12月合算して、確定申告することになります。

 

 甲欄で計算する場合、扶養親族等の数が必要です。そのため、扶養控除等申告書の内容(配偶者や扶養親族の氏名・生年月日・所得などのデータ)を給与計算ソフトに入力します。それにより、給与計算ソフトが扶養親族等の数を自動的に把握します。

 

 なお、扶養控除等申告書は、毎年1月の最初の給料の前日までに、企業に提出します(通常、12月の年末調整のときに、翌年分を提出します。)。同じ内容であっても毎年提出し、また異動のあったつど訂正することが必要です。

 

・源泉所得税と住民税の納付

 

 給料から天引きした毎月の源泉所得税(賞与のある月は賞与の分を含みます。)は、翌月10日までに、税務署に納めるのが原則です。この源泉所得税には、弁護士・公認会計士・税理士などの報酬も含みます。たとえば、12月中に支払った給料などの源泉所得税は、翌年1月10日までに納付します。

 

 例外として、給料の支払を受ける人が常時10人未満の小規模な企業は、税務署に届出をすることにより、毎月ではなく、年2回まとめて納付することができます。これを、源泉所得税の納期の特例といいます。

 なお、年2回というのは、7月と1月です。納期特例の企業は、決算期(事業年度)とは関係なく、1月~6月の給料・賞与支給分を7月10日までに、7月~12月支給分を翌年1月20日までに、それぞれ納めます(1月は正月休みがあるので、20日まで延びます。)。

 

 年末調整の還付額がある場合には、12月分の税務署へ納める額は、その分少なくなります。すなわち、給料・賞与から預かった源泉所得税は、年末調整の還付額は本人に戻し、その残額を税務署へ納めるということになります。12月分の源泉所得税の納付書には、通常、年末調整の還付額(または不足額)欄に金額が記入されます。

 

 住民税も、その月の給料から差し引いた分については、翌月10日までに市町村に納めるのが原則です。たとえば、12月に支払った給料から差し引いた住民税は、翌年1月10日までに納付します。

 

 住民税についても、納期の特例があります。すなわち、給料の支払を受ける人が常時10人未満の小規模な企業は、市町村に申請をすることにより、毎月ではなく、年2回まとめて納付することができます。ただし、住民税は、6月~11月分を12月10日までに、12月~翌年5月分を翌年6月10日までに、それぞれ納めます。6か月間の集計が源泉所得税と1か月異なるので、住民税の納期の特例はあまり利用されていません。住民税は、小規模な企業であっても、毎月納めていることが多いと思われます。

  

 

・給与計算における税務・社会保険・労働保険の相違点

 

 ① 用語

 

 税務では、「給与(給料・賞与)」といい、社会保険は「報酬」といい、労働保険は「賃金」といいます。

 

② 計算単位(計算期間) 

 

 所得税の年末調整は1月~12月が計算単位ですし、住民税の特別徴収は6月  ~5月です。社会保険(健康保険・厚生年金)は特に計算単位というものはなく、労働保険(労災保険・雇用保険)は4月~3月が計算単位です。

 

③ 通勤手当(通勤定期代)

 

 通勤手当は、税務では計算の対象に入らないのに対し、社会保険・労働保険では計算対象に含まれます。

 

 

・給料、賞与、退職金からの控除項目のまとめ

 

 給料・賞与・退職金から控除される個人負担分の各種の税金や保険料について、表にまとめておきます。次の3つの特徴があります。

① 賞与からは住民税が徴収されないこと。

② 退職金からは社会保険・労働保険が徴収されないこと。退職金からは、所得税と住民税だけ。

③ 労災保険の個人負担分はないこと(会社負担分だけ)。したがって、給料・賞与・退職金いずれからも、労災保険は控除されない。

  

 

給料

賞与

退職金

所得税

住民税

×

健康保険

×

厚生年金

×

労災保険

×

×

×

雇用保険

×

 

 税務と社会保険と労働保険がバラバラなので、もう少し、統一してほしいものです。

 

 

※本稿は、次の拙著・拙稿をもとに、法令の改正により大幅に加筆修正したものです。

寺田誠一著 『新人経理マン・経理ウーマンのための初級経理レッスン』税務研究会出版局1999年 「レッスン2-11~2-12 給料・賞与の源泉所得税」「レッスン2-18 退職金」

寺田誠一稿『聞くに聞けない会社経理のキホン 第2回 給与計算と年末調整パート2』月刊スタッフアドバイザー 2004年12月号

 

 

※このウェブサイトの趣旨については、「ご挨拶」参照。